研究課題/領域番号 |
17K15734
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高橋 大輔 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (40612130)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 関節リウマチ / コラーゲン誘発性関節炎 / 腸内細菌 / 酪酸 / 濾胞性制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
関節リウマチ患者 (発症1年未満、未治療)と健常者の糞便サンプルの比較解析から、関節リウマチ患者では酪酸産生細菌が減少していることを見出した。加えて、糞便中の酪酸濃度も顕著に減少していることが明らかとなった。こうした発症早期の腸内の酪酸濃度の減少が、その後の関節リウマチの重症化を引き起こす原因の一つではないかと考えられる。事実、腸内細菌が酪酸を産生できない特殊飼料を与えたマウスでは、関節リウマチのマウスモデルであるコラーゲン誘発性関節炎の発症率と重症度が顕著に悪化する。こうしたことは、腸内細菌の発酵代謝物である酪酸は、関節リウマチの発症率と重症化に抑制的に働いていることを示唆している。 我々の過去の研究から、酪酸は大腸において制御性T細胞という自己免疫疾患や過度な炎症を抑制する機能を持つ細胞の分化を誘導することを見出している。コラーゲン誘発性関節炎の発症には、関節軟骨の主成分であるコラーゲンに反応する自己抗体が重要であり、自己抗体の産生にはB細胞を助ける濾胞性ヘルパーT細胞の働きが重要である。濾胞性ヘルパーT細胞とB細胞のこうした相互作用を抑制するのが、濾胞に存在する特殊な制御性T細胞 (濾胞性制御性T細胞)である。 腸内細菌の発酵代謝により酪酸が産生される飼料を与えたマウスの大腸を解析したところ、この飼料の摂食により、濾胞性制御性T細胞の分化が誘導されることが明らかとなった。また、この現象の詳細を解析するために、in vitroの濾胞性制御性T細胞分化誘導システムを樹立し、酪酸により濾胞性制御性T細胞分化誘導の分化誘導が顕著に亢進することを見出した。 これまでの研究成果より、腸内細菌代謝物の酪酸は濾胞性制御性T細胞という自己免疫疾患の抑制に重要な細胞の分化を誘導することで、コラーゲン誘発性関節炎の発症とその重症化を抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載の計画通り、関節リウマチ患者と健常者の糞便サンプル中の酪酸産生菌と酪酸濃度を比較解析した。その結果、発症早期で未治療の関節リウマチの患者と健常者でのそれらの違いを見出した。これまで解析した糞便サンプル数が不十分と考えられる為に、今後も継続的に関節リウマチ患者と健常者の糞便サンプルを入手し、酪酸産生菌と酪酸濃度を解析する。また、関節リウマチのマウスモデルであるコラーゲン誘発性関節炎においても、糞便サンプル中の酪酸産生菌と酪酸濃度を解析している。マウスモデルは、現在条件検討が終了した段階であり、申請書に記載の計画より若干遅れが出ている。しかし、マウスモデルの実験も2ヶ月以内には完了する見込みである。 これまでに、in vitroにおいて濾胞性制御性T細胞の分化誘導システムを構築した。このシステムは安定して濾胞性制御性T細胞の分化誘導を行うことができる。このin vitroのシステムを用いて、濾胞性制御性T細胞の分化機序を解析している。遺伝子改変マウスを用いた実験や、遺伝子導入システムを用いた実験と組み合わせることで、申請書に記載の計画よりも半年程度早く目標を達成できる見込みである。 以上のことを総合すると、マウスを用いたコラーゲン誘発性関節炎の実験計画の一部に若干の遅れがあるもの、in vitroの濾胞性制御性T細胞の分化誘導システムを用いた実験計画は順調に推移していることから、研究全体としては概ね順調に推移していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
発症早期で未治療の関節リウマチの患者と健常者の糞便サンプルの酪酸産生菌と酪酸濃度を比較解析は、これまで解析した糞便サンプル数が不十分と考えられる為に、今後も継続的に関節リウマチ患者と健常者の糞便サンプルを入手し解析する予定である。サンプル数を増やすことで、より確度の高いデータとすることを目指している。関節リウマチのマウスモデルであるコラーゲン誘発性関節炎を用いた同様の実験について条件検討が終了しており、今後ヒトサンプルと同様の解析を行う。 申請書に記載の計画通り、今後はコラーゲン誘発性関節炎モデルを用いた解析を推進する。まずは、このモデルの発症に重要と考えられているT細胞サブセットについて焦点を当てて検討する。すなわち、腸内細菌が産生する酪酸がある条件と、腸内細菌が産生する酪酸がない条件において、コラーゲン反応性IL-17産生T細胞 (Th17細胞)や、濾胞性ヘルパーT細胞 (Tfh細胞)などの細胞集団を、細胞学・生化学的手法を用いて比較解析する。また、このモデルの発症の抑制に重要と考えられる、濾胞性制御性T細胞 (Tfr細胞)について、なぜこの細胞集団が腸内細菌が産生する酪酸がある条件でのみ分化誘導が促進し、それがコラーゲン誘発性関節炎モデルの抑制にどのように機能しているかについて詳細に解析する。 これまでに構築した、in vitroにおいて濾胞性制御性T細胞の分化誘導システムを用いることで、腸内細菌が産生する酪酸が濾胞性制御性T細胞 (Tfr細胞)の分化に果たす役割についても詳細に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究自体は概ね順調に推移している。しかしながら、費用がかかるマウスを用いた実験計画の一部を次年度に先送りした為、その分の助成金をそれに合わせて持ち越すことにした。
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