研究課題/領域番号 |
17K16108
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高井 良樹 東北大学, 大学病院, 医員 (40725743)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 炎症性脱髄疾患 / 虚血 / TDD / Balo / NMO / DAMPs |
研究実績の概要 |
本研究は、中枢神経における炎症性脱髄疾患において、自己免疫異常による髄鞘及びオリゴデンドロサイト障害と脱髄病巣の形成における、虚血性組織障害の関与を解明することである。我々は炎症性脱髄疾患に分類されるBalo型同心円硬化症において、虚血耐性現象により誘導される低酸素誘導因子 (Hypoxia Inducible Factor-1α; HIF-1α) がアストロサイトに発現し、結果誘導された炎症性サイトカイン(CCL2; C-C motif chemokine 2及びIL-1β; Interleukin-1β)が、同心円状脱髄病巣の形成に重要な働きをしていることを見出し報告した。また、同様の病態が腫瘍様炎症性脱髄疾患 (Tumefactive demyelinating disease; TDD) など、他の炎症性脱髄疾患においても認められる事を確認している。更に臨床病理学的検討を進めた結果、脱髄病巣中心部に壊死を伴うTDDの特殊な病型において、炎症惹起物質 (Damage associated molecular patterns; DAMPsなど) の血管周囲性沈着を見出した。同部位には髄鞘貪食マクロファージが顕著に浸潤しており、脱髄の観点から最も活動性の高い病期にあると考えられた。またオリゴデンドロサイトも消失しており、本物質が炎症性脱髄病態に直接的な関与があることが予想される。現在、その発現細胞の同定と病変分布の詳細を検討しており、また他疾患における同様の所見の有無についても確認中である。DAMPs関連蛋白については、その発現を免疫組織学的にスクリーニング検査を実施しており、脱髄への関与の観点から更に検討を重ねている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は、臨床病理学的な検討を中心に行う予定であった。申請者らが所属している病院に入院加療歴のある中枢性炎症性脱髄性疾患全例の抽出は終了し、急性期病変における画像的特徴の解析とその経時的変化の確認を行った。また、申請者らが所有していた、中枢性炎症性脱髄疾患における生検/剖検例56例を用いて、各種一般染色及び免疫組織化学的解析を行い、特に低酸素・低代謝及び酸化ストレスにより誘導される転写因子 (HIF, NF-kB, *CREB等) 及びその遺伝子産物 (*HSP, Bcl-2, 各炎症性サイトカイン等)、またDAMPsなど、脳虚血により誘導される炎症関連物質についてのスクリーニング検査を実施した。その結果、研究実績に記載した通り、炎症惹起物質 (Damage associated molecular patterns; DAMPsなど) の血管周囲性沈着を見出しており、また同部位における活動性脱髄の程度やその分布についての解析が終了した。現在、その発現細胞の同定と病変分布の詳細を検討しており、DAMPs関連蛋白についての解析を進めている状況であるが、計画についてはおおむね順調に進展していると考えている。病態に関与が疑われる蛋白については、今後炎症性脱髄を惹起する動物モデルを用いて、同物質の発現を確認するとともに、その治療介入による病変の縮小や改善などにも着目して研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で見出された、血管周囲に沈着を認めたDAMPsに着目して研究を進めていく。具体的には、同蛋白の発現分布とその細胞の同定、脱髄病期との関連性について更に病理組織学的に詳細を詰めていく。また、目的の蛋白に関わる物質(レセプターや下流で生じる変化)についても、病理組織学的にその発現の有無について網羅的に解析を行う。同時に、局所性脱髄モデル(抗aquaporin4 <AQP4> 抗体マウス脳実質内直接注入モデル)と全身性脱髄モデル(古典型及びAQP4-mAb注入型experimental autoimmune encephalomyelitisモデル)の動物を用いて、注目物質の発現及び経時変化の評価を行う。局所性脱髄モデルは、炎症性脱髄疾患の1つと考えられる視神経脊髄炎(neuromyelitis optica; NMO)の原因とされる抗AQP4抗体を、直接マウス脳内に注入することで、NMO類似のアストロサイト障害を再現する事が可能となるモデルである。本モデルでは、血管周囲のアストロサイト障害を呈すること、またアストロサイトの破壊が生じた後、マクロファージがその病変中央部に浸潤し脱髄病巣を呈するが、この組織障害の経過は、脳梗塞後の局所病巣と類似していることから適切な動物モデルと考えている。また、全身性脱髄モデルでは、週齢8週の雌Lewis ratに対し、MBP 100μg及びComplete Freund’s Adjuvant (CFA) 100μgを投与することで惹起される古典的EAEを誘導し、抗マウスAQP4-mAbを腹腔内に投与することで、NMO類似の広範なアストロサイト障害を作成する事を可能にするモデルである。局所と全身型の動物モデルでは、血管周囲の病理所見に差異があることから、両者の比較検討も有用と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた動物実験の準備が遅れ、そのために必要な物品の購入がまだ行えていないため。
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