研究課題
消化器癌ではRNA編集酵素の一つであるAdenosine deaminase acting on RNA 1 (ADAR1)の発現が上昇し、標的となるRNAの塩基置換が促進される。ADAR1の標的として代表的なものがantizyme inhibitor 1 (AZIN1)であり、AZIN1 RNA編集レベルの上昇によりornithine decarboxylaseおよびポリアミンが蓄積され癌の悪性度が増すと考えられている。癌組織では癌細胞以外にも癌関連線維芽細胞 (cancer associated fibroblasts: CAFs)や腫瘍随伴マクロファージなど様々な細胞が腫瘍微小環境 (tumor microenvironment: TME)を形成し、癌の浸潤や転移を促進すると言われているが、TMEにおけるRNA編集の意義は不明である。今回我々は大腸癌TMEのなかで最も代表的なCAFsにおけるRNA編集の意義について検討した。627例の大腸癌症例を解析した結果、癌組織ではADAR1の発現およびAZIN1 RNA編集レベルが上昇しており、それらは間質性マーカーであるVimentinやFAPの発現との相関が認められた。ついで大腸癌組織の免疫染色を施行し、ADAR1の発現は癌細胞、線維芽細胞ともに上昇していることを確認した。癌培養上清を線維芽細胞に添加するとADAR1の発現およびAZIN1 RNA編集レベルが上昇した。またEdited AZIN1を強発現させた線維芽細胞では浸潤能が上昇した。これらの結果から大腸TME中のCAFsのAZIN1発現の上昇はCAFsの浸潤能を増加させるとともに、腫瘍の浸潤能の重要な予測因子となり得ることが示された。
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