研究課題
多くのタンパク質や脂質は、糖鎖付加により糖タンパク質や糖脂質となることで様々な生体機能を発揮する。多様な癌種において糖鎖構造の変化が報告されており、これまで当科では胃癌、大腸癌、食道癌、IPMNにおける糖鎖の発現について調べてきた。本研究では肝細胞癌を対象とし、その中でも同一腫瘍内に分化度の異なる成分を有する症例について、レクチンマイクロアレイ法にて糖鎖の発現プロファイリングを網羅的に行い、分化度間で比較検討することで、肝細胞癌の脱分化に関連のある因子を同定する。さらに機能解析を行い、それらをコントロールすることで、肝癌の新たな治療法の確立を目指す。当科にて手術を行った肝細胞癌症例のホルマリン固定標本より組織を採取し、レクチンマイクロアレイ法による網羅的糖鎖解析を行った。対象は2006年1月~2015年12月までに当科で切除した、同一組織内に高分化型癌と中/低分化型癌の混在する症例で、基準を満たした連続する50症例について解析した。Laser captured microdissectionを用いて癌部から高分化成分、中分化成分を採取、蛋白抽出し、網羅的糖鎖解析装置GlycoStationを用いて45種のレクチンについて発現を測定した。分化度間で有意差を認めたのは、ConA、NPA、GNA、Calsepa4種のレクチンで、高分化成分と比較し、中分化成分で有意に上昇していた。これらはいずれも高マンノース型糖鎖に結合するレクチンで、脱分化により高マンノース型糖鎖が増えることが示唆された。糖転移酵素の1種であるMGAT1が低下すると高マンノース型糖鎖が増えることが知られており、MGAT1染色を行ったところ、中分化成分において有意に発現低下を認めた。現在肝癌細胞株を用い、MGAT1をノックダウンすることで、増殖能や浸潤能にどのような影響を及ぼすか実験を進めている段階である。
3: やや遅れている
30年度以降の研究計画として挙げた実験のうち、①病理学的因子との関連性については比較検討を完了した。有意差は認めなかったものの、MGAT1発現低下により予後が増悪する傾向を認めた。糖転移酵素の機能評価については現在HCC細胞株(Huh7)を用い、siRNAにてMGAT1をノックダウンしたのちに増殖能アッセイ、浸潤能アッセイを行ったが現在のところ有意差を認めていない。
MGAT1は、糖鎖に多様性をもたらす際、そのカスケードの根幹に存在する糖転移酵素であり、生体機能の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。ノックダウンの程度によっては致命的な変化となり得るため、その程度については今後も検討が必要である。ノックダウンの程度の大小による変化や他の肝細胞癌細胞株を用いた実験を進める予定である。また、MAN1A1などその他の糖転移酵素が高マンノース型糖鎖の増加に関わっているとの報告もあり、MGAT1以外の糖転移酵素についても検討する必要があると考えている。
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