本邦は超高齢社会を迎え加齢による唾液量減少に伴い口腔乾燥症を有する高齢者が増加している。口腔乾燥はう蝕発生リスクの増加につながりQOLの低下が懸念されるが、保存修復治療において口腔乾燥症を想定した条件での修復物の評価の報告はまだ少ない。 本研究では平成29年度に研究の骨子となる口腔乾燥症を想定した新規環境モデルの作製を行った。平成30年度は現在最も本邦で使用頻度の高いコンポジットレジン、レジン添加型グラスアイオノマーセメントおよび従来型グラスアイオノマーセメントがこの環境モデル内でどのような挙動を示すかの分析を行った。その結果、これまで乾燥に対して脆弱であると考えられてきたグラスアイオノマーセメントはこの環境モデル内では明らかな物性低下を認めず、特にレジン添加型グラスアイオノマーセメントについてはその物性が向上する可能性を示した。さらに歯面に対して用いられている保湿剤の併用がこれら修復材料の表面性状の長期的な保護に働き、プラーク沈着を阻害する可能性についても明らかにした。 これらの修復材料はいずれも物性、歯質接着性、抗う蝕性が異なり、患者の全身状態および口腔内にあわせた選択が求められる。本研究で得られた結果は、高齢者をはじめとする口腔乾燥症を有する患者の保存修復治療のあり方を示すものとなり、高齢者のオーラルマネジメントに対し新たな知見を与えることが出来たと考える。さらに、特殊な口腔環境と患者のニーズに応じた歯科治療の指針を提供することで、高齢者の口腔機能の維持・回復、健康寿命の延伸に貢献したと考えられる。
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