本研究は、区分所有建物(マンション)の老朽化に伴って生じる諸問題について、ドイツ法を対象とした比較法研究を目的とするものである。具体的には、ドイツにおける、老朽化建物に対する公法上および私法上の対処方法を調査し、わが国における同様の問題への対処方法と比較した上で、そこから示唆を得ることを目指す。 ドイツでは、一方において、私法である住居所有権法(わが国の建物区分所有法に相当する)において、荒廃建物等への特別な対処は予定されていない(たとえば、老朽化等を理由とする建物の建替えに関する規定はない)が、他方において、公法である建築法典では、建物が不良または瑕疵の状態を呈していて近代化や修繕によってはこれを除去できない場合について、市町村の取壊し命令(179条)を予定している。具体的な事例として、ドイツにおいて、荒廃建物が取壊し・再建のプロセスを経ているケースがあるが、これはほとんどが、所有者といったいわば内部の動きによるものではなく、外部からの作用によって実現している。 他方で、ドイツの研究者や実務家との意見交換を通じて、ドイツにおいても、私法上の制度として、区分所有建物の建替え(すなわち多数決による建物の取壊しと再建を可能にする制度)を導入すべきであるとの見解が有力にあることも確認された。 令和元年度においては、さらにドイツの荒廃建物の行政的処遇をめぐる現地調査が予定されており、この結果もふまえて、最終的な成果を公表する予定である。
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