本研究は,日本語母語話者から見た日本語学習者の日本語能力未発達を疑わせる契機となり得る「ねじれ文」の使用・誤用実態に対する実証的研究である。そこで、学習者の作文の収集、分析・ねじれ文の分類作業を行い、誤用になりやすい構文・語彙パターンを抽出し、論文執筆を進めた。主な成果を下記3点にまとめる。 1)名詞述語文が「ねじれ文」になりやすいことから、現状の初級から中級レベルの日本語教科書に現れる名詞述語文を明らかにし、導入・練習のあり方や扱われる項目の偏りから、「ねじれ文」を引き起こす原因の解明を試みた。 2)研究協力者とともに、台湾の大学にて3つのテーマについて書かれた作文70本を収集し、電子データ化を行った。今後、ねじれ文の作文研究に利用することが可能になった。 3)研究成果を複数の国際学会で発表し、査読付学会誌『日本語/日本語教育研究』、『日本語研究』、『EAJS』に投稿し、採択・出版された。とりわけ、『日本語/日本語教育研究』に採用された論文については、日本語教育と国語教育をつなぐ画期的な研究であると評価され、日本語教育学会奨励賞の受賞理由としても取り上げられた。 「ねじれ文」は日本語母語話者にとっても重要な誤用であるという先行研究もあるが,その多くは小中学生期に集中していることから、日本語学習者の産出に「ねじれ文」が多発することは、日本語学習者の日本語能力推定において低く見積もられるという深刻な課題であり、具体的な対策が不可欠であった。本研究は、こうした課題を持ちつつ、今まで体系的に扱われてこなかったねじれ文の問題に対し、その分類や母語の影響という観点から考察を行い、成果発表を行った点で貢献した。最後に、調査の中で主述の不一致が見られた授受を含む表現についても研究を発展させることができた。
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