研究実績の概要 |
本年度は,大きく2つの成果を得た. 1つ目は,『日本労働研究雑誌』64巻5月号に招待論文「体育会系神話の歴史と現在 ――コロナ禍にみる変化の兆し」を掲載できたことだ。ここでは、「体育会系学生は他に比して良い就職を得る」という体育会系神話の起源と変容について,それが埋め込まれた (embedded) 社会的文脈をたどり,直近の趨勢について統計的に記述した上で,体育会系神話のゆくえについて展望した。 2つ目は、英ラフバラ大学および仏インセップ(INSEP:National Institute of Sport, Expertise, and Performance)を訪問し、各機関で実際に勤務するアスリート・ライフ・アドバイザーに、学生アスリートのキャリア形成支援策についてインタビュー調査を実施できたことだ。米国では、スポーツ能力を学業能力に読み替えることで大学までの進学や奨学金受給のシステムを整えているのに対し、今回調査が実現した英仏では、アスリートを全人的に捉えた上で、スポーツ能力と学業能力を完全に分離して考え、一人の個人がパラレルに追求できるようサポート体制を整えていた。米国はジョブ型雇用、欧州は職域メンバーシップ型雇用が主流という中で、学生アスリートのキャリア形成についての考え方とサポートシステムの異同が確認できたが、その異同を生み出すメカニズムの特定までには至らなかった。 助成期間全体を通じて、学生アスリートのキャリア形成は、それが埋め込まれた社会文脈によって様態が異なること、また日本では日本特殊的な雇用慣行(企業メンバーシップ型雇用、新卒一括採用、学校歴主義、大企業志向、など)に強く依存する現象であることを、社会学的なデータと議論によって明らかにした。国際比較は日本の学生アスリートのキャリア形成が置かれた文脈の固有性・特殊性を明らかにする極めて有効な手段となった。
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