本研究は,医療法人および医療法人を中心として構成される医療法人グループに対して適用しうる会計制度の構築を最終目標に据えたうえで,その理論的な前提(基礎概念)を明らかにすることを目的として展開した。 一般の医療法人に対する財務報告制度は,2015年の第7次医療法改正によって初めて制定されることになったが,その実質的な中身については従来の規定を踏襲したものがベースになっており,医療法人の特性や求められる情報ニーズなどを考慮して構築されたものとは必ずしもいえない。本研究を通じて得られる成果は,医療法人および医療法人グループに対して適用される会計制度も,企業に対して適用される会計制度と同じように,制度に対するニーズから演繹的に設計できるようになるための基礎資料として役立てられることが期待される。 具体的な研究成果は以下の通りである。第1に,医療法人に対する財務報告制度は,企業に対する財務報告制度のように専ら資金調達に資することを目的とするのではなく,医療法人経営の実態に即した診療報酬の改正を可能にすること,および,老人ホームなどの附帯事業を外出しするか,医療法人内部で抱えるかの財務的影響が会計数値に及ばないするようにあることの2点に求められること,第2に,医療法人グループの会計を考えるにあたっては,一般に認識されている「医療は非営利」という考え方に固執せず,医療法人と関わりの強いメディカル・サービス法人(いわゆる「MS法人」とよばれるもの)のような営利法人も含めて考える必要性があること,第3に,医療法人グループにおいて実施される連結会計は,企業会計のように親会社株主に帰属する持分計算ではなく,独立行政法人会計基準などの他の会計基準にみられるように「公的資金の流れとその使途を明らかにする」ために行われるべきものであることの以上3点である。
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