研究課題
本研究は、幼児教育における 学習者側の理解や能動的な意味形成を重視しそれを引き出すには教師による介入が欠かせないと考えるアプローチ の理論化を目指す. 具体的には、プレイショップと呼ばれる遊びのワークショップを保育現場と協働で実施し、幼児が参加するプロジェクト型のあそびを教師がどのように記録し構造化することが子どもの主体的で深い学びを引き出すのかを検討している。その背後には、近年ホリスティック型の保育アプローチとして高く知られているスウェーデンのレッジョ・インスパイア―ドがある。今年度は、上記の目的を達成するため、昨年度に実施した予備調査のデータを分析するとともに、さらなる理論的整理を進めた。文献研究はもとより、外部有識者の参加する国際シンポジウムや研究会を実施し、スウェーデンのレッジョ・インスパイア―ドと呼ばれる保育アプローチの理論的特徴が議論された。特に、このアプローチの根幹とされるペダゴジカル・ドキュメンテーションと呼ばれる記録方法が、子どもと大人の学習過程をいかに媒介し、学びの共同体を構成するのかを最新の海外実践の検討を通じて整理された。また、子どもの遊びにおける情動経験がいかなる意味世界を構築するのかを実証的に検討するため、プレイショップに参加した子どもの遊び体験の質とその体験を描いた描画表現との関連性を検討した。これらの検討は、日本国内の心理学系の学会で継続的に報告された。さらに、2018年度後半からは言語的文化的に多様な背景をもつ幼児を対象としたプレイショップも実施した。南米にルーツをもつ日本語を母語としない子どもたちと日本の大学生が共に遊ぶ場を月に1回程度設けた。言語を介在させずとも、子どもたちの遊びや対人関係における能動性を引き出し、意味生成を実現させるための援助や保育者としての発達条件を今後検討していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
当該テーマに関する理論的検討については、研究会や国際シンポジウムの開催、学会への報告等を積極的におこなうことで、国内外の有識者から専門的知識を得ながら進めることができた。また、実践調査では、昨年度の予備調査のデータ分析及び、子どもの体験とその描出内容の実証的検討を進めるとともに、言語的文化的に多様な背景をもつ子どもたちを対象とした調査も実施することで、より包括的な視点から遊びの構造化に関する調査をおこなうことができた。
次年度は本科研の最終年度として、理論的検討と保育現場における実践調査をおこなうと共に、当該テーマに関する最終的な理論的整理をおこなう予定である。まず、ペダゴジカル・ドキュメンテーションと呼ばれる記録方法が子どもと大人の学び(=遊び)をいかに媒介し、構造化するのかを明らかにするため、特に大人の遊びに対する振り返り場面に着目して詳細な分析をおこなう予定である。また、昨年度国内学会で報告をおこなってきた、幼児の遊び体験の質と意味世界の描出との関連性に関する一連の研究を、研究論文としてまとめ発表すること目指す。最後に、言語的文化的に多様な背景をもつ子どもたちを対象としたプレイショップの実施を通じて、言語的な関わりのもつ権力性を明らかにしつつ、非言語的な介入と子どもの能動性との関連や大人側の援助者としての発達過程を実証的に検討することが課題である。
海外での学会発表を予定していたが、国内学会での発表に変更したことにより渡航費及び学会参加費に変更が生じたため当該助成金が発生した。この助成金は、今年度の海外学会への参加時に使用する予定である。
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