研究課題/領域番号 |
17K18056
|
研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
内田 祥子 高崎健康福祉大学, 人間発達学部, 講師 (60461696)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 幼児教育 / 意味生成 / プレイショップ / ドキュメンテーション |
研究実績の概要 |
本研究は、幼児教育における、学習者側の理解や能動的な意味形成を重視し、それを引き出すには教師による介入が欠かせないと考えるアプローチ(「教師-子ども協働参加型アプローチ」と呼ぶ)の理論化を目指す。このアプローチの背後には、ヴィゴツキーの発達の最近接領域の考え方とそれに対する議論があり、特にスウェーデンでは,日本と同様ホリスティック型(OECD,2006)の保育を実践しながら上記の議論を具体的に展開している。 2017~2018年は日本の幼稚園において、現職の教師と協働しながら、子どもの自発的な探求を遊びのワークショップを実施し、子どもの探究活動を捉え深めていくためには、ドキュメンテーションと呼ばれる視聴覚機器を用いた記録方法を用いて教師同士が対話を書重ねることが重要な媒介となることが明らかにされた。また、子どもの遊びにおける情動経験がいかなる意味世界を構築するのかを実証的に検討するため、プレイショップに参加した子どもの遊び体験の質とその体験を描いた描画表現との関連性を検討した。これらの検討は、日本国内の心理学系の学会で継続的に報告された。 2018年からは、ブラジル人によって運営されている無認可保育施設で、保育者や地域ボランティアと協働しながら、複数の文化や言語が入り混じる状況で子どもたちの探求過程を深め、言語を介在させずとも、子どもたちの遊びや対人関係における能動性を引き出し、意味生成を実現させるための援助や保育者としての発達条件を検証した。 また上記の調査と並行して、「教育と保育の理論と実践についての研究会」(Theory and Practice in Child Education and Care)、略称TPCECを立ち上げに関わり、スウェーデン等で展開されているホリスティック型の保育理論について議論する場をつくった。こうした研究交流の場を活用しながら、本研究課題の理論化を進めてきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該テーマに関する実践調査では、言語的文化的に多様な背景をもつ子どもたちを対象とした調査を実施することで、より包括的な視点から複数の言語や文化が共存する状況下での遊びの構造化に関する調査をおこなうことができた。特にドキュメンテーションと呼ばれる記録方法の意義や理論的位置づけについては、研究会や国際シンポジウムの開催、学会への報告等を積極的におこなうことで、国内外の有識者から専門的知識を得ながら進めることができた。一方諸外国では、多様な言語的文化的背景をもつ子どもたちに関するクリティカル・ペダゴジーの理論や教育実践が豊富に展開されておりこうした議論の文脈も整理しながら、理論化をすすめる必要がある。今年度はその点において課題が残った。
|
今後の研究の推進方策 |
本科研の最終年度として理論的検討と保育現場における実践調査をおこなうと共に、当該テーマに関する最終的な理論的整理をおこなう予定である。 まず、ペダゴジカル・ドキュメンテーションと呼ばれる記録方法が子どもと大人の学び(=遊び)をいかに媒介し、構造化するのかを、子ども自身の共同的省察への参加、という観点から理論的整理をすすめる。また、アメリカを中心に展開されている、言語的文化的に多様な背景をもつ子どもたちを対象としたクリティカル・ペダゴジーの理論や実践の整理も進める。これらの理論的検証に基づきながら、これまで南米系マイノリティ―の子どもたちが通う保育施設で実施してきたプレイショップでの遊びで得られたデータを検証し、包括的観点から教師-子ども協働参加型アプローチの理論化、論文化をすすめる。 また、これまで国内学会で報告をおこなってきた、幼児の遊び体験の質と意味世界の描出との関連性に関する一連の研究を、研究論文としてまとめ発表すること目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月に開催されたアメリカでの国際学会に参加する予定であったが、COVID-19感染拡大を防止するために、渡航を取りやめたため、その参加に関わる諸費用が残った。(学会は開催され、発表内容はデータで共有されオンライン上で議論された。)また、2月から3月に予定していた調査が、COVID-19感染拡大の状況のなかで中止され、それに関わる諸費用、謝金等が残った。
|