研究課題/領域番号 |
17K18103
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
松田 浩道 国際基督教大学, 教養学部, 助教 (70609205)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国際規範の実施権限 / 国際法 / 憲法 / 比較法 |
研究実績の概要 |
国際法は憲法秩序においてどのように位置づけられ,どのような法的効力を持つか。本研究は,アメリカ合衆国・イギリス・フランス・ドイツ・中国・日本の憲法秩序における国際規範につき,その実施権限の配分原理を比較法的に探究する。これにより,日本の憲法秩序における国際規範の法的効力は,従来の「直接適用」・「間接適用」の二分論ではなく,(1)狭義の直接適用,(2)裁判規範,(3)説得的根拠(persuasive authority)としての効力,という3種類に整理すべきことが明らかになった。 第一に,ヨーロッパ法におけるdirect effectはヨーロッパ法規範が個人に請求権を与える効力である。これに対して,アメリカ合衆国におけるself-executing doctrineは,このような「狭義の直接適用」とは大きく異なる。仮に日本において「直接適用」という用語を用いるのであれば,国際規範が個人に対して請求権を与える「狭義の直接適用」の場面に限定すべきであろう。第二に,裁判規範性については主観的基準・客観的基準ではなく,各国憲法秩序における実施権限の配分過程を動態的に検討すべきである。アメリカ合衆国憲法のように,連邦議会及び大統領の双方に対し,国際義務に違反する憲法上の権限を与える場合もあれば,日本国憲法98条2項のように,全ての国家機関に対して国際義務に対する誠実遵守義務を課す憲法も存在する。日本の裁判所は他の憲法上の義務によって国際義務の実施が禁止される場合でない限り,国際規範を裁判規範として扱い,司法審査を行うことが義務づけられている。第三に,最高裁判決においてはいまだ説得的根拠について十分に精緻な議論はなされていないものの,参照先の文書はきわめて多様であるから,引用の際には性質の異なる文書を列挙するのではなく,一つ一つの文書の性質や正統性を検討し,論じ分けていくべきであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果は国内外の研究者に注目され,様々な研究会や国際学会において多数の研究報告の機会を得た。日英両言語での研究成果の発表も順調に進んでおり,これまでの研究をまとめて書籍化する作業も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究が順調に進んでいるため,基本的にはこれまでの研究を書籍化する作業を中心に行っていく予定である。今後の展望としては,文際的研究を進めてゆくためにはイスラーム圏についての研究の重要性が極めて高いことが明らかになっているため,この点に注力していく予定である。 イスラーム法については本研究がこれまで取り組んできた欧米,日本,中国とはまったく異なる研究手法が求められるため,今後はイスラーム研究や比較宗教研究にも射程を拡大し,文際的な研究をすすめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内業務との兼ね合いで,予定していた国際学会のいくつかに出席することができなかった。そのため,出張経費が予定よりも少なくなり,次年度使用額が生じている。
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