国際法は憲法秩序においてどのように位置づけられ、私人は国際規範を用いてどのような法的主張を行うことができるか。申請者は、この問いが国際法の実施をめぐる各国憲法上の権限配分と密接に関連することに着目し、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、台湾、韓国、日本を対象国として比較法研究を行なった。 拙著『国際法と憲法秩序――国際規範の実施権限』(東京大学出版会、2020)は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、台湾、韓国、日本の比較法研究を踏まえて、次のように主張した。各国憲法秩序における権限関係の相違点を踏まえると、中国、台湾、韓国、そして日本においては、アメリカ合衆国におけるself-executing treatyの法理やヨーロッパにおけるdirect applicability / direct effectの枠組みをそのまま用いることはできない。実務的にも、従来の国際法学説が説いてきた主観的基準・客観的基準が用いられる場面は限られている。特に日本においては、すべての国家機関が国際義務を「遵守することを必要とする」(憲法98条2項)ことを前提に、機関適性の観点から実施権限行使のあり方を具体的に検討するのが適切なアプローチである。日本において主観的基準・客観的基準からなる直接適用可能性の要件論が意味を持つのは、国際規範のみによって具体的な金銭給付請求権等を基礎づけ、狭義の直接適用を導く場合に限定される(直接適用可能性の狭義説)。 拙著は、中国、台湾、韓国との比較法研究を通じ、欧米の議論をそのまま引き移すのではなく、その射程を慎重に分析した上で、あくまで日本国憲法の規定に即して議論を行うことを目指した。本研究は、法曹実務家にも注目され、最高裁判決の反対意見にも趣旨が取り入れられるなど、一定の成果を収めることができた。
|