本研究では、様々な国際協力事業を対象に人工衛星データと地理情報システムを用いたインパクト評価を実施し、エビデンスに基づく事業改善等の提言を行うことを目的とした。対象地域はアジア諸国、特にインドとバングラデシュとし、農業、森林、大気汚染、エネルギーなど他分野にわたる分析を行った。 日本のODA事業の評価としては農業、エネルギー、森林保全の3分野を対象とした。まずインドの小規模灌漑設備改善事業の分析では、整備された灌漑用水路の近隣において衛星データで測定された植生指数が大きく増加しており、農作物の収穫量増加に貢献したことが示唆された。カンボジアの水力発電所改修・建設事業の分析でも、送配電網を整備した地区で夜間光の強度が増しており経済活性化に貢献した可能性が示された。また1990年代からインド諸州で実施されてきた植林・森林保全事業の分析では、事業対象地区ほど森林伐採を抑制できていることが明らかとなり、全体としてODA事業の有効性が示される結果となった。 また数多くのドナーが支援しているバングラデシュの環境とフードセキュリティの問題についても研究を行った。まず環境問題として、大気汚染及び室内空気汚染が児童の健康に与える影響について分析した結果、暴露時期や性別によって異質的な健康被害を確認し、特に妊婦・女児に対する対策支援が重要であることを提言した。最終年度は大気汚染の主要因の一つであるレンガ工場の排煙の分布状況について分析を加えた。またフードセキュリティについては、2020年に発生した大型サイクロンと新型コロナウイルス感染拡大という二重のショックが稲作に与えた影響を分析した結果、全国で顕著な不作は確認されず、その背景として政府が採った様々な災害対策や労働者不足対策が奏功した可能性が示された。これらの知見は今後の同国に対する環境・農業支援事業の策定に資すると考えられる。
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