研究課題/領域番号 |
17K18157
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
亀山 晶子 日本大学, 文理学部, 研究員 (70771252)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サポートに関する社会的スキルの向上 / サポートに関する自己効力感の向上 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,抑うつ予防のため,「自分は家族や友人からサポートを得られる」という予測(サポート期待)を高める介入ワークの原型を作成することである。研究の方法として,大学生のサポート期待向上に関連する認知的・行動的要因をもとにワークを作成,大学の授業内で介入ワークを実施しその効果を検討する。この目的の達成を目指して,本年度は前年度までの成果を公表し,かつ,前年度の介入データに新たにデータを追加することでその効果を検証した。 本年度の研究実績の概要としては,まず,前年度までの成果を論文として発表した。すなわち,サポート期待を高めるうえで重要なサポート提供行動に焦点を当て,サポート提供を促進する要因,阻害する要因についてのモデルを発表した。 次に,前年度に実施した介入の成果を第83回日本心理学会において発表した。 さらに,本年度は前年度の介入データにさらに追加データをとるべく新たな介入群に対し授業内で介入ワークを実施した。そして,統制群,前年度介入群,新介入群で介入前後の効果指標を比較したところ,統制群に比べ前年度介入群と新介入群において有意な社会的スキルの向上がみられた。また,統制群に比べて前年度介入群と新介入群では介入前と介入直後の間で自己効力感が向上する傾向がみられ,介入後1か月後のフォローアップにおいてもその高さが維持されていた。 こうした介入の効果に加えて,介入群では実施条件や環境の違いによる影響も見られた。特に,本年度は前年度よりファシリテーターの数が少ない環境での実施となり,かつ,ワークの実施順序に変更を加えた。結果として,前年度介入群のほうが介入前後の効果の向上が大きかったことから,ファシリテーターの数を揃え,かつワークの実施順序も前年度のやり方が効果的である可能性が示唆され,今後のワーク実施に有益な示唆が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,前年度に予備的に行った介入ワークの結果に,新たに介入データを追加し,その効果を検証するだけでなく,その成果を発表する予定であった。しかしながら,新たな介入群の設定と実施にあたり,研究代表者の所属する大学の倫理審査に加え,実施先の大学の倫理審査を申請し,承諾を得る必要が生じた。そして,承諾が得られるまでに時間を要したため,介入実施の時期が予定より遅れ,数回に渡る効果測定のすべてのデータが揃い,分析にとりかかる時期が本年度末となってしまった。すなわち,新介入群のデータを得ることはできたが,本年度中に今年度の成果を発表するまでに至らなかった。そこで,本年度が最終年度であったところ,研究期間を1年延長することとなった。 その一方で,本年度は新介入群に実施したデータと前年度の介入群のデータを比較検討することができ,同じワークであっても実施条件や実施環境といった違いが効果に影響してくることもわかった。特に,本年度は介入実施の時期が遅れたこともあり,前年度よりファシリテーターの数が少ない環境での実施となった。かつ,サポートのワークを実施する前に社会的スキルのワークを実施するなど,ワークの実施順序に変更を加えた。結果として,前年度介入群のほうが介入前後の効果の向上が大きかったことから,ファシリテーターの数を揃え,かつワークの実施順序も従来のようにサポートのワークが先のほうが効果的である可能性が示唆された。こうした結果を踏まえると,今後サポート期待を改善させるための介入ワークを他大学や一般の社会人などでも広く運用していくうえで,ワークの内容だけでなく実施方法や環境についても整えていく必要があるという課題が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
上記の遅れも含め,最終年度を1年延長することとなったが,研究計画の方向性として大きな変更点はない。 次年度は本年度に追加された新介入群のデータも含めてこれまでの介入による効果をまとめ,その成果を報告する。 具体的には,まず次年度前半のうちに本年度得られたデータをさらに詳しく分析し,効果の個人差や効果に影響する他の要因を特定していく。そして,その成果を学会発表し,関連分野の専門家や研究者との議論することでワークの効果と今後の発展可能性,限界などを考察する。さらに,次年度中に論文として公表できるよう投稿していく予定である。 特に,今後介入ワークがさらに様々な場所で抑うつ予防として活用されるよう,社会人のストレスマネジメント対策の実務家,大学での健康管理担当者など,メンタルヘルス関連の現場で働く実務家に向けてワークの存在を発信していく。また,こうした実務家や,研究者との議論を深め,ワークを社会人対象に実施する場合に向けてさらなるワークの改善に努める。例えば,対象者に応じてワークの内容にバリエーションをもたせ,汎用性の高いワークの作成に向けて取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は従来最終年度として成果をまとめる予定であったが,介入実施の時期の遅れが生じたため,研究期間を1年延長することとなった。また,本年度末に参加を予定していた学会が新型コロナの関係で開催されなくなり,出張のキャンセルも生じた。以上の理由から,本年度に予定していた成果の発表にかかる経費(学会参加費・出張費),論文投稿にかかる経費を次年度に使用することとした。 次年度使用計画としては,データの成果の公表にかかる費用(学会出張費,参加費)に加え,論文執筆にあたり文献収集や図書の購入,そして投稿・掲載にかかる経費(抜き刷り代など)として使用する予定である。
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