研究課題/領域番号 |
17K18259
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
福田 裕大 近畿大学, 国際学部, 准教授 (10734072)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 録音技術史 / フランス / 聴覚文化 / フランス文学 / フランス詩 |
研究実績の概要 |
フランスに存在した録音技術のパイオニアの業績について、収集した一次資料をベースに調査を行なった。とくに年度前半では、スコット・ド・マルタンヴィルによるフォノトグラフ(音の振動を視覚的に記録する装置)の発明とその普及過程についての調査を行い、その結果を国際日本文化研究センターの研究グループ(「音と聴覚の文化史」)の研究会で報告した。具体的には、スコット・ド・マルタンヴィル当人の業績や足跡を整理したのち、発明の背景(神経生理学)、同時代の科学「場」との関係(在野の科学者/技師たち/アカデミシャンたちの間のギャップ)、フォノトグラフの受容(物理学・心理学・音声学)等について考察を行なった。 年度後半は、次年度に予定していた録音技術の受容についての調査を一部先取りして行い、録音技術と同時代の諸科学、また芸術運動とを相互に連接させるパースペクティブを得ることができた。とりわけ、当時のフランス詩壇にみられた「自由詩」運動を、録音技術の普及史という観点から捉え直すための調査を行い、二つの研究発表を通じてその途中経過を報告した(関西シュルレアリスム研究会、シンポジウム「フランス音声詩をめぐって」)。目下のところ、録音技術を取り込むことによって音声言語の客観的観察に着手した同時代の実験音声学が、同じ時代に現れた自由詩運動の実践者たちによって参照されていた可能性がある、との仮説を得るところまで調査が進展している。これまで韻律法の面から論じられるばかりであった自由詩を、「録音技術を介した音声の再発見」という観点から再考することによって、聴覚文化論とフランス文学研究双方に新たな展望を開くことができそうである。以後継続して調査をすすめていきたい。 以上に加え、本研究の成果の一端を、国立国際美術館にて開催された公開レクチャーにて一般の聴衆に報告できたことも、本研究の進展にとって有意義な機会であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度前半から半ばにかけて想定以上のスピードで研究が進み、本年度の目標としていた録音技術のパイオニアたちの調査については、予定していた調査を順調に遂行することができた。そのため、次年度の調査内容の一部を先取りし、予備的な考察を二つの研究発表を通じて公表することができた。一方で、年度末に多くの用務が重なったために、これらの成果を文書化する時間を取ることができなかったのは想定外だった。以上二点に鑑み、全体としては標準的な進度とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度末にフランスで収集した資料をもとに、録音技術の普及に関わる調査を継続する。具体的には以下三点の目標を設ける。(1)録音技術が同時代の諸科学(とくに実験言語学と心理学)の実践のうちがわでいかに使用されていたのかを調査する。(2)「自由詩」運動の実践者たちが如何様に実験言語学や心理学を参照していたのかを調査する。(3)ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』を精読し、作中に描かれる録音技術の機能を当時の科学的コンテクストのうえで再考する。
加えて、本年度行なった録音技術のパイオニアに関する研究資料のうち、一部入手できなかったものがあるので、それらを入手するために継続的に調査を行う予定である。
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