研究課題/領域番号 |
17K18259
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
福田 裕大 近畿大学, 国際学部, 准教授 (10734072)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 録音技術史 / 19世紀のフランス / 聴覚文化論 / フランス文学 |
研究実績の概要 |
1.録音技術の先駆的機器とされるスコット・ド・マルタンヴィルの「フォノートグラフ」が普及していく過程を見るために、資料調査をおこなった。とりわけ興味を引いたのは、音の振動を視覚的に記録するこの機器が、同時代に見られた言語学の刷新と密接に関連していたということである。すなわち、言語におけるリズムやアクセントを検討するために、書かれた文字ではなく、実際に発話された音声、ないし、当の音声を生みだした身体運動そのものを観察しようとする傾向がこの当時生じており、この傾向のさなかで上述した「フォノートグラフ」に端を発するグラフィックな記録機器たちが活用された。こうした事象を同時代のより大きなコンテクストに位置づけるために、Robert Michael Brainの書籍をはじめとする先行研究を参照し、本研究の成果が持ちうる歴史的射程を再検討する作業を行なった。
2.フランスにおける録音技術の普及過程のいち側面として、同技術を取り込んだ世紀末の文学作品を検討し、その想像力に迫った。とりわけ、ヴィリエ・ド・リラダンの『未来のイヴ』に描かれる人造人間と、その身体描写に占める録音技術の位置づけを再考すべく、この作品の精読に加えて、19世紀フランスの哲学・生理学の主要著作を概観し、人間の身体をめぐる同時代の認識の変容を跡づける作業を行なった。『未来のイヴ』の人造人間の描写を支える身体観は、神経系に関する知識や連関説といった発想など、同時代の哲学・生理学において見られた刷新を視野に収めることなくしては把握できないものである。この関連性をいっそう明瞭にするために、本研究ではヴィリエと密接な交流があったシャルル・クロ周辺の知的文脈を参照することにより、録音技術を「人間身体のあり方を新たな仕方で表象するためのツール」として活用しようとする当時の想像力の一端を捉えることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「概要」に記した二つの系列の調査結果を包括的に捉える研究発表(「シャルル・クロ周辺から見るシュルレアリスム:無意識概念の周縁をめぐって」)をおこなったことで、最終年度となる次年度に向け、本研究の成果をまとめ上げるための展望を開くことができた。また、上述の二つの研究成果のそれぞれを公表するための手段についてもすでに目処が立っているが、スケジュールの関係からこれらを年度内に公表することは叶わなかった。以上に鑑み、本年度の進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度であることに鑑み、以下のような成果報告の機会を持つために、必要な準備を進めていく。 (1)スコット・ド・マルタンヴィルの「フォノートグラフ」の歴史的意義をめぐる研究。国際日本文化研究センターによる研究プロジェクト「音の聴覚の文化史」の成果刊行物の一部として発表予定。(2)『未来のイヴ』をはじめとする、19世紀末のフランス文学に現れた録音技術の意味を再考するための研究。所属研究機関の紀要に発表予定。(3)本研究の現代的意義を問うための、シンポジウムの開催。国内外の研究者やサウンド・アーティストと連携を進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度(2017年度)の研究が計画よりも早く進捗したため、当該年度末に行なったフランスでの資料収集を効率よく進めることができた。そのため、本年度(2018年度)ほぼ同じ期間を見越して申請していた海外での資料調査の日程を数日分短縮することになり、この分の諸経費を次年度に持ち越すこととなった。この持ち越し分は、次年度に計画しているアーティスト等を招いたトークイベントの人件費等に充てる予定である。加えて、年度内に購入した書籍費の支払いが所属先の手続きスケジュールの関係で次年度持ち越しとなったため、この額も合わせて次年度使用額に計上している。
|