研究期間を一年延長したのちの最終年度の成果として、以下の2点があった。 1.エジソンに先行する録音技術のパイオニアの一人であるスコット・ド・マルタンヴィルについて、研究期間中に進めてきた基礎研究の成果を文書化した。英語圏のものを中心とした既存の録音技術史のなかで流通している言説の多くが、二次文献の伝聞的な参照を幾度も重ねた結果、かなりの問題を抱えていることが判明した。当該論文では、一次資料、同時代の関連資料を丁寧に再調査することを通じて、既存の言説の誤りを訂正しつつ、この人物の業績を再調査・再検討するために求められる道筋を提示した。 2.本研究を総括するために実施したシンポジウム(2021年2月16日実施分)の内容を報告する文章を執筆した。本研究プロジェクトの意義や成果を振り返りつつ、「録音技術の歴史研究」という学術的営為がもちうる現代的な意味をひろく共有するために、シンポジウム当日に交わされた対話の内容を改めて振り返り、以後になされる同種の研究のための基盤的議論に類するものとしてこれを整備した。 このうち「1」は録音技術の誕生と普及の歴史を、「19世紀フランス」というローカルな状況を注視するかたちで描出するものであり、研究申請の時点から目標に据えていた「英語圏の研究成果の相対化」を実現したものとして位置付けることができる。同じく「2」も、やはり計画段階から構想していた通り、「技術・メディアを対象にした微視的な歴史研究」を、専門家集団の内側に閉じ込めてしまうのではなく、アートを中心としたより広範な領野に開放することで、その現代的意義を問い直そうとするものである。 以上2点の成果を加えたことによって、本研究は当初想定していた目標を達成することができたと考える。
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