研究課題/領域番号 |
17K18454
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高本 康子 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 地域比較共同研究員 (90431543)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 日本陸軍 / メディア / 遺品 / 宗教 / 異文化接触 / 記憶 / 戦後日本 / 近代日本 |
研究実績の概要 |
2020年度は、日本国内における新型コロナウイルスの感染拡大によって日本社会全般に生じた一連の諸規制・諸制約のために、著しく活動が制限されたと言わざるを得ない。本研究が主な活動内容とするのは、現地における広範な資料調査である。自衛隊駐屯地資料など、公的機関の所蔵によるもの、つまりアクセスが比較的容易であるものだけではなく、民間の個人所蔵資料等、コロナウイルス流行という状況がない通常の場合においてもアクセスに慎重な配慮が必要なものまで、広く多く調査対象に含めた点が、本研究の特徴である。しかし新型コロナウイルスの感染拡大、特に本研究代表者が居住する札幌市が、国内では最初に拡大が始まり、その状況が全国に報道され続けたことは、札幌市から国内各地に出向いて訪問することに、こちら側も訪問される現地も共に、感染に対する懸念を持たざるを得ないこととなった。駐屯地資料室等では一時的な対応として、閉鎖もしくは閲覧中止等の処置が取られた。また本研究の調査対象には、個人の所蔵資料があるが、資料所有者自身が高齢、または高齢の家族が同居している場合が多く、感染のリスクを考えると、調査のために訪問することによって、ここまで本研究で形成に努力してきた信頼関係を損なう可能性があることが懸念された。従って、そのような行き来は厳重に控える、という以外の対策は取りようのない状況であったと言わざるを得ない。特に2019年度、本研究の中核的存在となる資料群として、東京都内二カ所の個人所蔵資料に対する調査を集中的に開始したが、これらの所有者はいずれも非常な高齢であり、以前から治療を継続している健康上の問題も持っている。また独居であるので、コロナウイルスに感染した場合、最も危険な状況が生じる可能性がある。従って2020年度は、現在までに収集済みのデータを精査し、今後の調査をできるだけ短期間に集中して実施しうるような整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既に述べたように、本研究の核心的存在となると目される東京都内二カ所の資料群については、2019年度から集中的な資料調査を開始している。2020年度についても、この二つの資料群を中心に本研究の活動を進めた。上述のような状況であり、現地に出向いての資料調査はほとんど不可能であった。2020年度は、それぞれ1回ずつの訪問を実現したが、それ以上の行き来には、持病のある高齢者を、コロナウイルス感染拡大が続いている札幌から訪問することに、深刻なリスクを懸念せざるを得なかった。このように、現地へ出向いての資料調査がほとんど不可能であり、またこの状況がいつどのように好転するかも、予測が困難であったため、本研究の作業として2020年度は、2019年度までに収集したデータを精査分析することに集中した。この二つの資料群のみで、資料点数が二万点を超えると予想されることもあり、この時点に至っても中間地点であると言わざるを得ない。しかしそれゆえにここで、全体の調査プロセスを見渡して、今後の作業が可能な限り速やかに進捗するように活動を再デザインすることは、非常に有益であったと思われる。特に、戦後日本における民間レベルでの大陸との交流という視点でその内容を捉え直した場合、有益な情報を提供する可能性が考えられる資料が含まれることに、2020年度に実施した整理分析による最大の収穫があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの感染拡大については、2021年4月現在も、深刻な状況が続いている。現在代表者の居住地である札幌市においてもであるが、調査対象資料の所蔵がある東京都においても同様である。しかし2020年の状況と比較すると、ワクチンの接種も開始され、日本社会全体もコロナウイルス対応の生活様式をとりつつあるのではないかと思われる。従って、感染のリスクに対する注意を最大限払いつつ、ある程度の現地作業再開も可能になるのではないかと思われる。2021年度においては、まず①現時点で調査済みの資料のデータを使用して、この部分の資料に限定した目録・解題を完成する。この二つの資料群は、個人資料としては想定外とも言える多量の資料を持つ。更に現在においても、所有者の意向および所有者を取り巻く諸事情によって、資料が増え続けているのが現状であり、資料総数は二万点を超えると推測される。従って学術的に有益な形式で本目録・解題を完成するまでには、なお時間を要すると言わざるを得ない。そのため本研究では、2020年度の分析に基づき、資料全体を複数のカテゴリに分類し、第一のカテゴリから順次目録化していくこととした。②既述のように、戦後日本の民間レベルにおける大陸との交流について、新しい知見をもたらしうる資料が含まれることが、2020年度の分析によって明らかになった。従ってこれらの資料に対する分析を更に進め、戦後日本における異文化の記憶と表象について、考察したいと考える。③2020年度においては資料所有者から改めていくつか要望が出された。個人情報等への配慮から、ここでは明記を避けるが、これについて可能な限り誠実に対応するのが、調査協力をして下さった方々への当然の義務と考える。従って2021年度はこれについても、特にコロナウイルスへの配慮を必要としない事柄から順次、速やかかつ真摯に取り組んでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「研究実績の内容」および「現在までの進捗状況」に述べた理由によって、研究予定内容の大部分が大幅に変更されたため。2020年度においては、新型コロナウイルス感染拡大による社会状況の変化、および資料所有者への配慮の必要から、2020年度に実施すべき予定作業内容、すなわち、東京都内二カ所の資料群及び国内の自衛隊駐屯地資料室複数カ所の調査を、2021年度に先送りした。
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