研究課題/領域番号 |
17K18510
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
谷川 竜一 金沢大学, 新学術創成研究機構, 助教 (10396913)
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研究分担者 |
岡本 正明 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (90372549)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 植民地 / 開発 / トンネル / 水力発電所 / 豊後土工 / 戦後賠償 / 冷戦 / 出稼ぎ |
研究実績の概要 |
本研究は、日本・アジアの近代化において極めて重要な役割を果たしたにもかかわらず、特殊な労働を担う存在であったためにこれまで知られてこなかった、大分県・旧南海部郡(現・佐伯市周辺)の出稼ぎトンネル坑夫集団「豊後土工(豊後どっこ)」の活動解明を目的としている。 本年は、大分県旧南海部郡の調査を3回、他に国内最長の狭軌トンネルである北陸トンネルの現地調査を行い、充実した研究成果を得た。特に国内・国外の重要プロジェクトに関わった豊後土工の方々と新たに会うことができ、インタビューによって情報を収集できた。浦々を細かく回って調査するとともに、都内へと進出した豊後土工が設立したトンネル会社の系譜なども把握することができた。さらに、各建設会社や建設コンサルタントのアーカイブにアプローチし、資料なども収集することができた。加えて、対アジア賠償の第1号であるバルーチャン発電所に関わった現地側技術者の資料なども整理した。分析を通して植民地開発から戦後賠償まで一貫した豊後土工の系譜を着実に明らかにしつつある。 また旧南海部郡地域の郷土史家らとも繋がることができ、現在の郷土・地域史において豊後土工の重要性を議論することができた。そうしたなかで、豊後土工らの歴史的な意義を地元地域に還元する必要性に加え、彼らが関与したトンネルの文化遺産的な価値についてもある程度の情報収集・分析が必須と感じている。 具体的な成果としては、研究代表者による土木学会における研究発表が1回、論文掲載が1本あり、代表者の所属組織主催の国際シンポジウムでは本研究テーマを合わせ、ユネスコから産業遺産の専門家を招き、トンネルや鉱山などの産業遺産に関する議論を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進展しているが、国際的なアプローチよりも、大分県における豊後土工の成立史および地域史を重視して進めることとした。なぜなら調査開始時に考えた以上に旧南海部郡地域における豊後土工の数は減っており、その記憶の継承を急務と考え、海外調査よりもやや比重を地域分析や研究成果の地域への還元に向けて力を割いた。予想以上の興味深い事例や情報を獲得したためにややスピードが鈍化したと考えており、研究全体としては概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
戦後賠償工事や開発援助関連事業に組織的に関与した豊後土工の様相は解明しつつある。また、地域における生活やその環境の様子に関しても調査を進めることができており、3年目は大分県佐伯市(旧南海部郡の人々が集まった中心都市)において地域の郷土史家らとともに研究発表会を行う予定である。 研究計画の立案時、代表者の所属する大学や大都市における成果還元を考えていたが、地域への還元をまず第一として考えるとともに、地元メディアや該当地域の公的機関などと成果を共有していく方法を今後考えていきたい。また豊後土工たちの国内の経歴や主要プロジェクトに関しては当初それほど焦点を当てていなかったが、やはり見過ごせない重要な工事が多く、研究期間の延長もやや視野に入れつつ、今年度は調査・研究したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内における重要工事に参加した豊後土工たちが研究立案時の想定以上に数を減らしていた。海外プロジェクトに関わった現地側の労働者たちもインタビューをするにはタイムリミットを迎えているが、国内の豊後土工のほうに注力しなければ豊後土工の歴史の体系化が難しくなると判断した。そのため、海外における調査を次年度に回すこととし、再計画を行った。 また、共同研究者らとの現地調査を計画していたが、調査の進展にともない、豊後土工らが出かけた海外地域も想定以上に広く(例えばマレーシアや台湾、韓国などの重要工事)、そうした地域との土木史的背景を把握することやそのための資料収集に、本年度は結果的に時間を費やした。そのため海外調査を先延ばしとしたために、その部分の予算を繰り越し、2019年度に調査を行うことにした。研究の総合作業がやや遅れることになるが、この結果調査はより充実し、多くの資料や記録を集められると考えている。
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