研究課題/領域番号 |
17K18802
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 丈典 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (90293688)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 電子プローブマイクロアナライザー(EPMA) / 定量分析 / CHIME年代測定 / モンテカルロシミュレーション |
研究実績の概要 |
サブミクロンCHIME年代測定を実現するために、低加速電圧でのウラン・トリウム・鉛の定量分析法の分析条件について検討した。 分析領域は、電子ビームの大きさと試料内でのエックス線発生領域により決まる。加速電圧を低くすると試料内での電子の散乱領域が狭くなり、エックス線の発生領域も狭くなる。しかし、試料内でのエックス線発生領域を直接観測することはできないため、モンテカルロシミュレーションにより予測した。予測の確からしさはモンテカルロシミュレーションの確からしさにより決まる。そこで、試料から発生するエックス線強度を鉱物の実測値とシミュレーションの結果と比較した。鉱物のエックス線強度は閃ウラン鉱および方トリウム鉱を用い、名古屋大学宇宙地球環境研究所のJCXA-733 (日本電子株式会社製)で測定した。加速電圧を変化させ、エックス線強度がどのように変化するか調べた。その結果、実際に測定したエックス線強度の変化とシミュレーションによるエックス線強度の変化は数%以下の誤差で一致していることが明らかになった。したがって、使用しているモンテカルロシミュレーションプログラムが一定の信頼性をもっていることが示された。 次に、電子光学系の電子回路を改良し、良好で安定した電子ビームを得られるようにした。そして、実際の電子ビームの直径を測定した。電子ビームの直径は、銅グリッド上に金の薄膜を載せた試料の二次電子像を取得し、金薄膜と真空の境界部分の立ち上がり幅を用いて推定した。その結果、実際の電子ビーム径は理論的に予測される電子ビーム径とよく一致していることが明らかになった。 以上のことから、任意の条件で電子ビーム径と試料内でのエックス線発生領域を予測可能になり、実際の分析領域が予測可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
任意の試料、任意の分析条件でエックス線発生領域を明らかにし、サブミクロンEPMA定量分析が可能な条件を選択可能になった。まず、電子光学系の改良により電子ビーム径がほぼ理論値となったこと、及び、モンテカルロシミュレーションによりエックス線発生領域を十分な精度で予測できることが確認できた。これにより、今後はサブミクロンEPMA定量分析が可能な条件についてのみ、シミュレーションやEPMA分析を行えばよくなり、当初の目標が達成された。 ただし、シミュレーションプログラムの乱数発生器が並列処理に適していないため、シングルコア・シングルスレッドで実行せざるを得ない。そのため、シミュレーション速度により条件探索の効率が制限されている。すなわち、モンテカルロシミュレーションの効率化が今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
閃ウラン鉱、方トリウム鉱およびモナズ石について、モンテカルロシミュレーションを用いて分析領域が1ミクロン未満となる加速電圧及び照射電流の範囲を明らかにする。そして、エックス線強度が最大となる組み合わせを用い、閃ウラン鉱及びモナズ石のウラン・トリウム・鉛を測定する。そして、その結果が通常の分析で用いる15kVでの結果とどの程度ずれるか検証する。ずれは補正計算モデルが仮定する発生関数とモンテカルロシミュレーションによる発生関数のずれで説明可能と予測している。そこで、低加速電圧条件でモンテカルロシミュレーションによる発生関数を使って補正計算を行う手法を確立させる。これにより、サブミクロン領域のCHIME年代測定法を確立させる。 次に、電子ビーム径を小さくすることによって電流を強くすることができないか検討する。これは、エックス線強度は電子ビームの電流に比例することから、より強い電流を用いて検出限界を向上させ、現有の熱電子放出方電子銃による年代測定では困難な若い試料の年代測定も可能にするためである。そのため、FE-EPMAの適用可能性を検討する。ただし、FE-EPMAでは低加速電圧時の最大照射電流が著しく小さくなる可能性があり、実際にFE-EPMAを用いて限界を調査する。 確立された定量分析をサブミクロン粒子に適用可能であることを示すために、粉砕した鉱物を低加速電圧で正しく定量できるか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
モンテカルロシミュレーションをこの助成金で購入する電子計算機で行う予定であったが、試験的に他の電子計算機で並列化が可能かの検討も含めて実施したため平成29年度は支出しなかった。また、大韓民国においてもEPMA分析を行う予定であったが、十分なマシンタイムを確保できる目処がたたなかったため中止した。一方、電子光学系の改良により電子ビームの直径が改善され、交付申請時の予測を大幅に上回り、ほぼ理論値通りとなる目処がたった。そのため、さらなる改良のため支出した結果、上記の通りの次年度使用額が生じた。 電子ビームの直径をさらに小さくすると照射電流に余裕が生じ、より強い電流を照射してより少ない濃度の鉛が分析可能になると予測される。平成29年度ですでにモンテカルロシミュレーションにより試料内のエックス線発生領域を十分な精度で予測可能になっているため、次年度使用額を用いてFE-EPMAの適用可能性を調査する。
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