研究課題/領域番号 |
17K19078
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
片山 竜二 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40343115)
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研究分担者 |
川原村 敏幸 高知工科大学, システム工学群, 准教授 (00512021)
谷川 智之 東北大学, 金属材料研究所, 講師 (90633537)
上向井 正裕 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80362672)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | ワイドギャップ半導体 / GaN / 波長変換素子 / 量子光学 / モノリシック集積 |
研究実績の概要 |
本研究では、「分極反転が必須」という波長変換素子の既成概念にとらわれない、簡素な構造と作製工程を用い部品を全て一体集積化したモノリシック共振器型波長変換素子の開発を目的とする。新規提案する素子構造は、例えばc面サファイア基板上に積層した単結晶窒化物半導体GaNにより構成されるモノリシック微小共振器型構造である。この素子に励起光を入射すると、非線形光学効果により直交偏光した量子もつれ光子対が発生し、量子暗号通信や量子コンピュータに用いる量子光源を実現できる。この共振器鏡での反射位相変化を制御して二波が強め合うため、従来の強誘電体素子のような結晶方位の周期変調(分極反転)などの特殊な構造は一切不要である。従来個別の光学部品を用い構成され光学定盤を専有していた大型の共振器型波長変換素子を、1 mm以下のサイズへと縮小し劇的な小型化と高安定化を狙うと共に、実際に量子光源として機能することを実証する。 これまでの実績として、下記の進捗状況にて述べるように、(i)第二高調波発生(SHG)デバイスの設計、(ii)SHGデバイスの作製について顕著な成果が得られた。特に(i)においては、当初提案であったコランダム系酸化物多層膜微小共振器に代えて、窒化物半導体薄膜への深掘り加工というシンプルなプロセスを用いてデバイスが実現可能であることを見出し、(ii)において実際にデバイス作製に成功した。従来のデバイスに比べて光閉じ込めが強いことから、およそ1000分の1の短尺化にもかかわらず40%を超える波長変換効率が見込まれるという画期的な成果であり、当初計画以上の成果が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)SHGデバイス設計 サファイア基板上にMOVPE成膜したGaN薄膜を用いて、分光エリプソメトリによる屈折率分散の評価後、転送行列法を用いてモノリシック微小共振器型SHGデバイスの設計を行った。波長変換を担う区間は通常周期的分極反転構造に用いられるコヒーレンス長相当のGaN平板とし、その左右に周期的空気層を深掘りにて形成した3次分布ブラッグ反射鏡(DBR)を配置する構造とした。左側から入射した基本波が左右DBRによりおよそ2000倍に強く閉じ込められることで高効率に第二高調波を発生する。また左側DBRには位相調整区間を配置することで、発生した第二高調波が強めあい放出されるよう設計した。デバイス全長が11μmと、従来の強誘電体周期的分極反転SHGデバイスの1000分の1以下であるにも関わらず、46%という極めて高い波長変換効率を実現できることを数値シミュレーションにより確認した。 (2)SHGデバイス作製 上記設計を元に、実際にGaN薄膜に対して深掘りを施すことで、モノリシック微小共振器型波長変換デバイスを作製した。まず電子線描画とリフトオフを用いてNiハードマスクをパターニングし、続いて反応性イオンエッチングにより左右DBRの空気層を深掘りにより形成した。このとき側壁傾斜角はおよそ80°と垂直性が良くないが、続いてアルカリ水溶液を用いた異方性エッチングを施すことにより、ほぼ垂直なm面側壁からなる設計通りのデバイスを形成することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から進めている研究項目(1)デバイスの設計、(2)デバイスの作製に加えて、下記項目を進める。 (3)SHGデバイスの動作実証 上記作製プロセスにおいてモノリシック集積型微小共振器デバイスの作製に成功したが、光学結合の際に基板によるケラレが生じるため、これを解決する構造を検討する。その後、波長可変CWレーザを基本波として用い、SHGの実証を行う。 (4)OPDCデバイスの動作実証 続いてSHGと逆の非線形光学過程にあたる光パラメトリック下方変換(OPDC)の実現のため、左右DBRを再設計し、偏光もつれ光子対発生を試みる。波長可変OPO を用いて励起し、OPDC素子単体からの二光子発生とその偏光関係を確認後、二光子の波長が共にポンプ光の倍となる縮退OPDC 条件を満たすよう、デバイス構造と温度を合わせ込み、二光子の量子相関を確認する。続いて405 nm 帯波長可変CW レーザとSi-SPD 二台を新規導入し、時間間隔アナライザを用いることで、810 nm 帯域でのHong Ou Mandel干渉測定を行う。また自由空間光学系による偏光量子もつれの評価を行い、量子光源としての機能を実証する。 (5)コランダム系多層膜微小共振器の検討 並行して進めているコランダム系酸化物材料の物性評価を進め、当初計画であった垂直共振型の多層膜微小共振器デバイスの作製を進め、上記と同様の結晶方位反転不要な波長変換デバイスの実証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
酸化物多層膜成膜用スパッタリング装置の整備のための経費を当初計上していたが、よりシンプルなプロセスを用いてのデバイス作製が可能な窒化物半導体薄膜を使用したデバイス作製を優先して検討したため。今後は当初計画どおりの支出を行う。
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