研究課題/領域番号 |
17K19321
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村井 篤嗣 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (10313975)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 畜産学 / 栄養生理学 / ニワトリ / モミ米 / 腸管 / ムチン / ワクチン / IgA |
研究実績の概要 |
本研究では、モミ米摂取によるムチン分泌の増加によって、ニワトリ腸管で粘液層が発達し腸管粘膜の保護作用が増強されること、さらに、腸管IgA抗体の産生応答への影響を明らかにする。本年度は、モミ米摂取による粘液の主要成分であるムチンの腸管全体の変化ならびに腸管感染症ワクチンで誘導したIgAの産生応答を調査した。結果の概要を以下に示す。 (1) モミ米、白米、トウモロコシを主体とする飼料を摂取させたニワトリから十二指腸、空腸、回腸、盲腸を採取し、リアルタイムPCR法によりムチン遺伝子の発現誘導レベルを調査した。その結果、モミ米摂取により十二指腸ならびに回腸におけるムチン遺伝子発現量がトウモロコシ摂取の約2倍に上昇した。空腸と盲腸ではモミ米摂取によるムチン遺伝子発現量の増加は見られなかった。 (2) モミ米摂取が経口ワクチン曝露時のニワトリのIgA産生応答に及ぼす影響を調査した。腸管免疫応答を観察するために、鶏伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)に対する生ワクチンをニワトリに経口曝露した。腸管で産生されたIgAの一部が蓄積される胆汁を採取し、ELISA法でIBDV特異的なIgA産生レベルを調査した。その結果、モミ米群においてIBDV特異的なIgAレベルがトウモロコシ摂取よりも低下することが判明した。また、胆汁中の総IgA濃度もモミ米摂取により低下した。よって、モミ米摂取は経口ワクチン曝露時のニワトリの腸管免疫応答を低下させることが明らかになった。 以上より、モミ米摂取は十二指腸と回腸を中心に粘液の主成分であるムチン産生レベルを増加させるが、もう一つ防御因子であるIgAの腸管産生レベルは低下させることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した実施計画をほぼ実行することができた。当初の予想では食物繊維が豊富なモミ米の摂取は腸管におけるムチンとIgAの両者の産生を誘導すると推測した。ムチンについては予想通りの結果を得たものの、IgAについては予想に反してその産生が減少することが判明した。このモミ米のIgA産生応答の減弱化は再現性があることも確認した。一方、このIgA産生応答の減弱化がムチン産生誘導による節約効果によるものなのか、あるいはモミ米自身に含まれる機能成分によりもたらされたのかは不明である。よって、今後はIgA産生応答減少の原因究明が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
IgA抗体は腸管内に散在するリンパ球が産生し、腸管分泌液中に最も大量に含まれている免疫グロブリンである。IgA産生の減少は腸管微生物の易感染化につながるため、モミ米摂取時にどのような仕組みでIgA産生応答が減少するかを明らかにすることは重要な研究課題である。モミ米を摂取したニワトリでは、腸管バリア機能の健常性維持に必須なムチンの分泌と産生が亢進することも事実であり、モミ米摂取による腸管生理機能への波及効果は複雑であることが予想される。当初からモミ米摂取によりIgA産生応答が変化する仕組みの解明を計画していたため、実験計画そのものに大幅な変更は必要ない。この機構の解明を研究の中心にすえて次年度の研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予想では食物繊維が豊富なモミ米の摂取は腸管におけるムチンとIgAの両者の産生を誘導すると推測した。ムチンについては予想通りの結果を得たものの、IgAについては予想に反してその産生が減少することが判明したため、測定項目の一部を変更したことで次年度使用額が生じた。一方。当初からモミ米摂取によりIgA産生応答が変化する仕組みの解明を計画していたため、実験計画そのものに大幅な変更は必要ないと考えている。
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