研究課題/領域番号 |
17K19472
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
村山 俊彦 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (90174317)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / アミロイドペプチド / リソソーム / グルコシルセラミド |
研究実績の概要 |
交付申請書に記載した平成29年度の研究実施計画に沿って研究を実施した。研究テーマ1)及び2)アミロイドbetaのモノマー・オリゴマー体、エンドサイトーシスに関する研究を以下のように行った。アミロイドbeta (Abeta1-42) を溶解しただけの溶液はモノマー体であり、37oC で48 時間転倒混和処理を行うとオリゴマー体を形成する。線維芽細胞をモデル細胞として用い、両者の細胞障害性を 24 時間後に比較したところ、モノマー体アミロイドbeta もオリゴマー体も顕著な細胞障害性を示し、10 micro M で有意な障害性を示した。ニーマンピック病やゴウシェ病治療薬として臨床で使用されているグルコシルセラミド合成酵素の阻害剤を処理したところ、単独で低濃度から細胞毒性を示す薬剤と高濃度で初めて細胞毒性を示す薬剤の2群に分類された。現在、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤とアミロイドbeta の併用効果を検討している。さらにこの研究の過程で、プロテイナーゼ活性型受容体を刺激した場合に、ある種のグルコシルセラミド合成酵素阻害剤がミトコンドリア活性を増大させ細胞生存増強作用を示すことを見出した。現在、他のスフィンゴ脂質代謝の変動、細胞内コレステロール変動が細胞生存に与える効果を、アミロイドbeta の併用と合わせて検討している。蛍光性セラミド関連物質とアミロイドbeta の取り込みアッセイの検討を行なっており、今後のエンドサイトーシス経路の解析に用いる予定である。研究テーマ3)アミロイドbeta の分解に関して、リソソーム内蛋白分解酵素の阻害剤を用いて、アミロイドbeta の細胞障害性を検討した。分解酵素の阻害剤がアミロイドbeta の分解を減少させ、細胞毒性の増強が観察されるのではないかと期待したが、現時点では効果が観察されていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究の達成度に関する自己点検、自己評価ではおおむね順調に進展していると考えている。モデル細胞としてヒト由来の2種の線維芽細胞を用いアミロイドbeta の細胞障害性を明らかにできた点は大きいと考えている。アルツハイマー病などの神経変性疾患では、最終的に神経細胞の障害が観察されるが、発症前、発症途上のプロセスでは、グリア細胞(アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトなど)や血管内皮細胞や血管壁由来の線維芽細胞などの関与が指摘されているからである。グリア細胞と同様に線維芽細胞も各種のサイトカイン、栄養因子を生成し、これら細胞群の異常活性化が神経変性を誘導すると考えられる。株化された線維芽細胞ではスフィンゴ脂質代謝酵素のいくつかの欠損株が得られており、標的遺伝子のノックダウンや導入も、神経細胞やグリア細胞に比べ容易、効率的に行えるという利点がある。この特徴を平成30年度の研究に生かせると考えている。 オリゴマー体アミロイドbetaだけではなくモノマー体アミロイドbetaも細胞障害性を示した理由としては 24 時間のアミロイドbeta処理中に、細胞存在下でオリゴマー体形成を起こしていたと推察された。この細胞存在下でのオリゴマー体形成が、細胞膜上(あるいは細胞膜中)のスフィンゴ脂質あるいはコレステロールレベルによってどのように変化するかを明らかにできれば、アミロイドbetaと他の会合分子(受容体など)との相互作用の解析に生かせると期待された。平成29年度研究ではアミロイドbeta の細胞内輸送、分解に与えるスフィンゴ脂質、コレステロールの影響に関して大きな差異が見出されていない、あるいはまだ検討が不足している。平成30年度にさらに検討する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度では、平成29年度に得られた成果を生かしながら、テーマ1)2)3)を継続させて発展させる。スフィンゴ脂質代謝酵素の変異細胞が入手可能なこと、遺伝子欠損・導入の効率が良いなどの線維芽細胞の利点を生かし、グルコシルセラミドやガングリオシドなどのスフィンゴ糖脂質代謝系だけでなく、スフィンゴシン・スフィンゴシン-1-リン酸、セラミドキナーゼ・セラミド-1-リン酸、スフィンゴミエリン合成系などの代謝系変動と、アミロイドbeta の細胞障害性との関連を検討する。また、コレステロールを含まない LDL-deficient medium で細胞を培養しアミロイドbeta の細胞障害性とスフィンゴ脂質の関連を検討する。アミロイドbeta の細胞内での移動、エンドサイトーシス系の研究に関してはリサイクリングエンドソームなどを介した細胞内ベジクル輸送に対するスフィンゴ脂質の役割を検討する。私達は、スフィンゴミエリンなどの細胞内輸送が、細胞内コレステロール含量の増大とグルコシルセラミド含量の低下で障害されることを見出している。その際に得られた知見、方法を応用して、アミロイドbeta の細胞内輸送、特にリソソームへの輸送亢進などの条件を見出したい。 平成30年度からは、テーマ1)2)3)の研究の継続と発展に加えて、テーマ4)として痴呆症モデルマウスを用いて、スフィンゴ脂質と神経変性との関連を個体レベルで検討する。多くの神経変性疾患では脳内スフィンゴ脂質含量の増大が報告され、ニーマンピック病 C 型ではスフィンゴ糖脂質合成阻害薬ミグルスタットが臨床使用されている。そこで中枢移行性の高い銅キレート薬クプリゾンを摂食投与した多発性硬化症モデルマウスを作成し、スフィンゴ脂質代謝酵素阻害薬(ミグルスタットなど)の神経保護作用の可能性を薬理学的に検討する。
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