スフィンゴ脂質はシグナル分子あるいは膜構成分子として機能している。スフィンゴ脂質代謝の異常や変動がアルツハイマー病などの神経変性疾患において観察されている。本研究ではセラミド代謝系を薬理学的に変動させた細胞、セラミドキナーゼをノックダウンさせた細胞、セラミドキナーゼノックアウトマウスなどを用いて薬理学的作用を観察した。アミロイドペプチドは、神経細胞だけではなく、グリア細胞などの他の細胞にも取り込まれ、各種の応答を引き起こす。また末梢系の免疫担当細胞や線維芽細胞など多くの細胞系においてもアミロイドペプチドは取り込まれ、炎症性サイトカインの放出などの細胞活性化や、あるいはアポトーシス、ネクローシスなどの細胞死を促進する。本研究では、線維芽細胞をモデル細胞として用い、アミロイドペプチドによる細胞死を観察した。この際に、各種のセラミド代謝酵素の阻害薬を共存させ、その薬理学的効果を検討したところ、D609という薬物がアミロイドペプチド毒性を減少させることを見出いだした。本薬物は、スフィンゴミエリン合成酵素阻害薬であるため、細胞内でセラミドレベルを増大させる。セラミドをスフィンゴシンに変換する酵素セラミダーゼを阻害する薬物は、セラミドレベルを増大させると考えられるが、細胞保護作用を示さなかった。現在、保護作用を有するD609の薬理作用の詳細を検討中である。アミロイドペプチドの凝集性(オリゴマー化)の違いを検討したが大きな差異は観察されなかった。 セラミドキナーゼの神経の分化・生存・機能に対する作用ををノックダウン細胞などで観察したところ、神経伝達物質の放出を制御している結果を得た。また本酵素が細胞内でユビキチン化され、プロテアソーム、リソソーム(あるいはオートファジー)による二重の分解制御を受けていることを見出した。ノックアウトマウスの行動にも、疾患誘発時に異常が観察された。
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