研究課題/領域番号 |
17K20145
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
岡村 勝友 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授
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研究期間 (年度) |
2019 – 2021
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キーワード | miRNA / RNAプロセシング / 遺伝子発現調節 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
遺伝子発現は様々なレベルで絶妙に制御されている。そしてそのほんのわずかな異常が癌や脳機能障害といった疾患の原因となる。このような微妙な調節には蛋白質コーディング遺伝子の発現調節、とくに小分子RNAであるmicroRNA(miRNA)による調節機構は重要な働きを持っている。このことから、miRNA遺伝子自身の発現調節も非常に重要になる。本研究では、miRNA遺伝子の発現を転写後に調節する機構の重要性について網羅的にmiRNA転写と成熟型miRNAの発現量を多数のサンプルからのデータを比較し、miRNA遺伝子の転写後調節機構を網羅的に解析している。癌細胞株の遺伝子発現データを用いた解析から見出されたmiRNAプロセシングを制御するRNA結合蛋白質候補のノックダウン実験により、多くのRNA結合蛋白質が癌関連miRNAクラスターの発現を調節していることを見出した。これらRNA結合蛋白質は以前よりmRNAスプライシングやポリA付加の制御を通して細胞癌化に関わることが示されている。今回の結果から、mRNAとmiRNAのプロセシングが協調的に制御され、細胞癌化のような細胞状態の変化を司る可能性が示唆された。また神経特異的miRNAのmiR-124プロセシング調節とその神経分化における役割の解析を進めており、神経分化過程でのmiRNAプロセシング発現量の変化を生細胞内で解析し、miR-124プロセシング変化との関連を調べている。これらの解析をさらに進めるとともに、論文として発表していくことを予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キメラmiRNA発現実験によりAgo2過剰発現によるmiR-124プロセシング亢進にはヘアピンループ領域の配列が重要であることを突き止めた。しかし、ループ領域の配列だけで亢進が起こるわけではなく複雑なメカニズムが存在すると考えられた。ES細胞分化系を用いた生細胞解析でmiRNAプロセシング因子の発現変動を調べることに成功し、詳細な解析を開始した。 また前年度の解析により見つかったmiRNAプロセシングを制御する可能性があるRNA結合蛋白質の候補について、機能解析実験を行ったところ、特定のRNA結合蛋白質のノックダウンにより発現量が変化するmiRNAを複数見出した。これらの解析から、多くのRNA結合蛋白質を介したmiRNAとmRNAプロセシングの協調的な制御の全体像が明らかとなり、この発現制御ネットワークの細胞増殖制御における役割をさらに検討している。この結果はAMSI BioInfoSummer2020において、口頭発表(招待公演)した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は新型コロナウイルス感染拡大による影響があり、予定していた学会発表を行うことができなかったが、来年度は、より多くの学会発表を行い、いくつかの結果を論文として発表することを目標としている。Ago2過剰発現によるmiR-124プロセシングの亢進の分子メカニズムは、ループ領域に重要な配列が存在することを突き止めると同時に、想定していたよりも複雑な機構が存在することが明らかになったため、戦略の変更が必要となる。一方で、ES細胞を用いた試験管内分化実験において、生細胞で、蛍光蛋白により内在性遺伝子座を標識したAgo2やその他のmiRNAプロセシング因子の発現を生細胞内で観察できるようになり、来年度中の発表を予定している。 さらに、RNA結合蛋白質による新規のmiRNAプロセシング制御機構を発見したことから、これらの正常細胞及び癌細胞における生理学的役割を明らかにし、順次論文として発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染拡大による影響があり、緊急事態宣言下で実験を行うことができない時期があったことや予定していた留学生の来日が叶わなかったことにより、一部の実験の進捗が遅れた。また多くの学会が中止またはオンライン化したことから、発表の機会を十分に得られなかった。このような遅れがあり、予算の次年度使用も発生した。しかし、来年度は技術補佐員の増員により実験の遂行能力がさらに向上することが期待されるとともに、人件費及び消耗品費の増加、また本年度控えていた学会発表の増加などにより、繰越分が来年度には消費されると予想される。
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