研究課題/領域番号 |
17KK0020
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
野村 奈央 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (10709588)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | アメリカ研究 / 再洗礼派 / アーミッシュ / 消費文化 / 物質文化 / 民族誌 |
研究実績の概要 |
本年度の研究は、本年が最終年度となる基盤研究(C)(課題番号15K01863)で構築してきたアメリカの専門家との共同研究に向けて、アーミッシュの宗教アイデンティティの形成と消費文化の相互関係に関する研究の基盤を確立し、今後の共同研究の方針を確認するすることにつとめた。具体的には、エリザベスタウン大学ヤング再洗礼派・敬虔派研究所の客員研究員として、2018年8月末から9月末および2019年3月末にアメリカ合衆国ペンシルバニア州に滞在し、共同研究のテーマにおける研究対象や調査方法を精査した。 また、アレゲニー大学国際保健学部助教授パメラ・ルネスタッド氏(人類学)およびネブラスカ大学国際キルト研究所マリン・ハンソン氏(博物館学/デジタルヒューマニティーズ)と研究情報を交換した。さらに、ルネスタッド氏の協力を得て、ペンシルバニア州北部のアーミッシュ・コミュニティで約1週間の現地調査を実施した。その結果、主たる調査先であるペンシルバニア州ランカスター郡のアーミッシュ・コミュニティが観光産業やアーミッシュコミュニティ外の市場経済に関わることで経済的に成功し、積極的に消費活動に参加可能な状況にある一方で、大都市から離れたアーミッシュ・コミュニティでは同様の消費活動が見られないことが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度にあたる2018年度では、共同研究者と最新の研究動向や調査対象地に関する情報交換をしながら、共同研究となる現地調査の準備をすすめた。これまでの研究に引き続き、ペンシルバニア州ランカスター郡のアーミッシュコミュニティでの民族誌学的な現地調査を実施しながら、エリザベスタウン大学再洗礼派・敬虔派研究所上級研究員ドナルド・B・クレイビル氏(社会学/アーミッシュ研究)と協力して、今後の現地調査の対象について精査をすすめた。また、ウェストチェスター大学史学部准教授ヤニカン・スマッカー氏アメリカ史/デジタルヒストリー/物質文化研究)とは、デジタルヒューマニティーズの方法論を用いて本研究の成果を一般社会と共有するために構築を目指しているオンラインのフレームワークについて情報共有をおこなった。本年度研究交流の機会があったネブラスカ大学ハンソン氏は、博物館での学術研究を展示だけではなくウェブサイトやSNSといったデジタル媒体を使用して一般に公開する知識と経験が豊富であるため、今後の共同研究の可能性も見えてきた。最後に、ペンシルバニア州メノナイト歴史協会では、アーミッシュ向けに発行されている新聞Die Botschaftや機関誌など、日本では入手することが困難な一次資料を入手した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度設定した調査計画を踏まえ、来年度以降も引き続きインフォーマントに同行し、アーミッシュの労働環境や、観光産業を通じた外部との接触に焦点をあてながら、民族誌学的な調査を実施する予定である。これまでのフィールドワークの経験から、アーミッシュの意識調査を実施するには、従来の社会学・人類学的な聞き取り調査のアプローチでは、インフォーマントが調査者に強い拒否感を示すことが判明している。そのため、本調査では、マイクを使用したインタビューや質問票を実施せず、アーミッシュの生活に溶け込んでフィールドノートを作成する参与観察の手法を採用する。具体的には、アーミッシュコミュニティ内における階級の形成と労働環境の関連性を探るために、主に女性の就業の場となっている教区立学校や近年増加しつつある服飾関連の家内産業と、近年男性の就業先として増加傾向にある建築産業の二領域で調査を実施する予定である。調査手法としては、参与観察に基づいたエスノグラフィ作成を中心とした研究を行う。研究成果を一般向けに公開するオンラインのフレームワークの構築にあたっては、博物館での実務経験が豊富なネブラスカ大学のハンソン氏に新たに共同研究者として加わってもらう可能性を探りたい。また、現地調査と並行して、すでに執筆依頼のあった国際学術誌やアンソロジーに投稿する論文を執筆し、研究の発信に努める。
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