研究課題
急速なグローバル化の進展のなか、人々を区切る社会的境界が揺れ動いている。理論的には、グローバル化はナショナルな境界を弱化し、新たな超ナショナルな境界の形成を促進すると予測される。ところが、実証研究の結果、理論的予測は単純すぎることがわかったドイツの国籍法の歴史的過程は、ドイツ圏の諸邦が血縁原理のもとでドイツ全体のナショナルな境界に発展したと考えられるけれども、第二次大戦後ゲストワーカーなどの定住は、「ナショナルなもの」自体の反省をもたらした。イタリアの食文化も、当初はナショナルな境界の形成を促進したものの、食文化自体の多様化とともにナショナルな境界も多様化した。アメリカ合衆国の出生地主義と生得的市民権制度は、当初は「アメリカ国民」の形成に寄与したものの、近年では排外主義・人種主義に結びついている。英国のEU離脱はナショナルな境界の強化を目指したものであるけれども、その後の労働力導入の試みはナショナルな境界を超えてしまうものである。ビルマのディアスポラ市民権政策はナショナルな境界の強化・拡大を目指したものであるにもかかわらず、帰国した「ディアスポラ」は「国民」とは異なる存在として扱われてしまう。以上のように、社会的境界という観点から見ると、ナショナルな境界を強化しようとする動きは常に超ナショナルな境界の形成と隣り合わせである。この矛盾した傾向性を成り立たせているのは、経済のグローバル化に順応せざるを得ないと同時に、国内のナショナリズム的、ポピュリズム的感情への対応しなければならないという国家などが抱えた矛盾した課題のためである。
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