研究課題
メラノーマ細胞を移植したマウスを用いて、HVJ-Eの腫瘍内投与により、全身性のT細胞にどのような変化が生じるか解析した。まず、B16-F10メラノーマ細胞をC57BL6マウスに移植した。5日後に直径がおよそ5mmの腫瘍に成長してから、HVJ-Eを2日ごとに3回投与した。3回投与して24時間後に脾臓を採取し、フローサイトメトリーを用いて、CD3/CD8共陽性細胞と、CD3/CD4共陽性細胞をソーティングし遺伝子発現パターンをRNAseqによって解析した。その結果、HVJ-Eに応答するB16-F10メラノーマ細胞で形成した腫瘍にHVJ-Eを腫瘍内投与した場合、CD8陽性細胞、CD4陽性細胞の両者とも活性化し、大きく遺伝子発現パターンが変化した。このRNAseqのデータを用いてTCRレパトア解析を行ったが、30M reads程度のデータからは2000個程度のTCRしか検出されず、TCRレパトアの全体像を明らかにするためには、TCRseqを行う必要があることがわかった。次にT細胞の受容体(TCR)の解析をシークエンシングで行うための簡便なTCRseqライブラリー作製法の開発に取り組んだ。現在、TCRseqは様々な方法で解析されているが、本研究を完成させるためには多くのTCRseqライブラリーを解析する必要があり、低コストでシークエンシングを行うことが必要である。現在のTCRseqは1ライブラリーあたりのコストが高く、ライブラリー作製も煩雑である。そこで、我々は簡単にライブラリーを作製でき、かつシークエンシングを低コストで行える手法の開発を行った。現在、この簡便なTCRseq法を用いて、HVJ-Eの腫瘍内投与が全身性のTCRレパトアに与える影響を解析しているところである。
3: やや遅れている
HVJ-Eの投与によるメラノーマの第2相治験の開始が遅れたことにより、第2相治験サンプルの解析ができなかった。治験開始の遅れは、メラノーマについては、抗PD-1抗体のキートルーダーを無償提供するメルク社がPMDAと大阪大学の間で合意した治験デザインに難色を示したことによる。具体的にはPMDAとの間では、HVJ-E投与群とプラセボ投与群の2アームで行うことになっていたが、メルク社がHVJ-E投与群のみとし、その結果をキートルーダー治療のhistorical dataと比較することでよいとしたためで、最終的には抗体提供者のメルク社の意向を重視した結果となった。治験届を平成30年末に提出し平成31年1月に治験開始が認められ、患者の登録を行って実際に患者に投与されたのは平成31年3月であった。来年度はそのサンプルの一部が入手でき、解析予定である。TCRのライブラリー作成法も開発できており、マウスでの実験は進んでいる。今後治験サンプルの解析に向けて準備は整えている状況である。
平成31年度は、HVJ-Eの腫瘍内投与が全身性のT細胞にどのような影響を与えるか、RNAseqと我々が開発した簡便なTCRseq法を組み合わせて解析する。HVJ-E腫瘍内投与による全身性のCD8陽性細胞、CD4陽性細胞の活性化には腫瘍がHVJ-Eに反応することが必須であることを見出している。この現象を詳細に解析することで、ヒトにHVJ-Eを投与した時の免疫細胞の応答を予測できる。そのため、脾臓だけでなく、腫瘍や所属リンパ節も採取し、CD8陽性、CD4陽性、CD4とCD25共陽性細胞をソーティングし、これらの遺伝子発現とTCRレパトアを解析することで全身のT細胞動態にHVJ-E腫瘍内投与が与える影響を明らかにする。さらにHVJ-Eの第II相試験で得られる末梢血中のCD8陽性細胞、CD4陽性細胞の解析を行い、マウスで得られたデータと比較し、HVJ-Eによる抗腫瘍効果の機序を明らかにする。
治験の開始が遅れたため、当初計画していた臨床サンプルを用いた実験が当該年度には達成できなかった。平成31年3月に治験が始まったため、当初計画していた実験を来年度に実施する。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: pii: S0006-291X(19) ページ: 30410-3
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Sci. Rep.
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