研究課題/領域番号 |
17KT0061
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 亮子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (50306859)
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研究分担者 |
遠藤 智子 成蹊大学, 国際教育センター, 講師 (40724422)
中山 俊秀 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (70334448)
横森 大輔 九州大学, 言語文化研究院, 准教授 (90723990)
土屋 智行 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (80759366)
柴崎 礼士郎 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (50412854)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 定型表現 / 創発 / 文法 / 定型性 / 言語知識 / 相互行為 / 話しことば / コーパス |
研究実績の概要 |
従来の言語学では、無限の文を生成・理解するための文法規則を基盤に据えた言語能力の理論家が主流であったが、日常の言語使用においては、文はそのつど新規に生成されるのではなく、定型表現(決まり文句から構文的なものまで全体・または部分的に固定化した表現)の占める割合が大きいことが近年指摘されている。そこで本研究は言語体系に見られる定型表現の役割という、従来言語学で顧みられてこなかった問題に、日中英3言語の会話データを中心に分析に取り組む。平成20年度は「定型性研究の基礎固め」をテーマとして定型性の分析に向けての情報収集とアウトプットを行った。研究会合は全部で4回開催した。2017年9月のキックオフ会合では各メンバーの研究テーマ(特に定型性に絡めて)、研究進行予定を決め、午後からMarja-Liisa Helasvuo氏、野村佑子氏、高梨博子氏を迎えてワークショップを行った。11月のワークショップでは定型表現の理論的枠組に関連して、海外協力者のHongyin Tao氏・高梨博子氏・土屋智行氏に発表して頂き、お互いに少しずつ異なる研究領域から言語の定型性とそれを踏まえて成立する言語の創造性への理解を深めた。1月には定型表現研究の方法論に着目しながら、協力者の大野剛氏と鈴木のケーススタディ、そして言語処理の分野で日本語複単語表現辞書(JMWEL)を60年代から構築してきた首藤公昭氏の講演を通して定型表現の認定の問題に関して議論を行った。そして2月末には、「話しことばの言語学ワークショップ」の一環として、進捗発表会を公開で行いメンバー6名が発表を行いフィードバックを得た。多岐にわたるデータ(実験、歴史的コーパスデータ、自然会話の動画、電話会話の録音等)に見られる定型表現の振る舞いについて聴衆と議論した。これらの会合は実施計画に従って順調に遂行され、多角的に段階的に言語の定型性に理解を深められたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず研究実施計画に基づいて研究会合を計4回開催することが出来たことが挙げられる。それぞれに特徴と成果があった。9月にキックオフ会合(成蹊大学)で個々のメンバーの研究の背景・興味を確認しあい、11月には海外研究協力者のHongyin Tao氏(UCLA)と大野剛氏(アルバータ大学)を招聘して会合を開き(慶應大日吉)定型性と創造性についてデータを元に英語で議論した。1月には自然言語処理の見地から定型表現の辞書作成をされてきた首藤公昭先生と交流した(慶應大日吉)。今年度の研究会合において、当初の計画通りに、チーム内のみならずチーム外、また言語学者だけではなく工学研究者とも情報交換や議論を行い、定型性を踏まえた上での文法観・言語知識をどう捉えていくかについて、メンバーそれぞれが理解を深めることが出来たと考えている。 会合と並行して、各自研究テーマに基づきデータベースの構築や事例蓄積を進めており、また国立国語研究所の日常会話コーパスのデータ等も利用しながら定型性の分析を進めてきている。2018年2月には、2017年度の最後の研究会合として、「話しことばの言語学ワークショップ」という公開研究会の場で研究進捗発表会を催すことが出来、聴衆と活発に意見交換を行うことができた(於:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は5月26日に慶應義塾大学三田キャンパスにおいて第1回研究会合を開催し、データ観察・分析をテーマに進める。さらに9月にはカナダのアルバータ大学で、Referentiality(言語の指示性)と定型性との関連性に着目する初めての国際会議を開催する予定である。当グループからも研究代表者と分担者が出席して発表を行うべく準備を進めている。多岐にわたる言語の研究者が複数の国から集まる貴重な機会となる。(中期的目標としてこのワークショップの成果を2019年度の国際語用論学会で発表予定である。) また2018年度の後半には2017年度同様、研究協力者のHongyin Tao氏・大野剛氏らを招聘して、日本の国内の学会におけるパネル発表、または独立したワークショップを開催することを考えている。今後はこの科研の標題にあるとおり、即興的に言葉を交わす日常の相互行為において定型性が豊富に観察されるという事実に立脚して、このプロジェクトの最終目標の一つである「文法知識のモデル化」をどのように遂行するかについても視野に入れながら議論を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な書籍等の消耗品や、国内での学会発表用の旅費といった他費目の支出を優先して本科研を執行した結果、当初予定していた設備備品を購入するには残金が不足したケースがあった。また外国旅費として予定していた分については、メンバーの他研究費から支出できたことが考えられる。
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