研究課題/領域番号 |
17KT0063
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
関 礼子 立教大学, 社会学部, 教授 (80301018)
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研究分担者 |
金子 祥之 立教大学, 社会学部, 特別研究員(日本学術振興会) (10758197) [辞退]
宮内 泰介 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50222328)
渡邊 登 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (50250395)
丹野 清人 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (90347253)
好井 裕明 日本大学, 文理学部, 教授 (60191540)
飯嶋 秀治 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (60452728)
松村 正治 恵泉女学園大学, 人間社会学部, 准教授 (90409813)
青木 聡子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80431485)
高橋 若菜 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (90360776)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | オラルプロテスト / 被害の見える化 / 災害と生活変容 / 語る人生 / 物語の制度化 |
研究実績の概要 |
本年度の調査研究および研究会における議論から、以下のような成果があがった。 人生とともにあるオラリティは記録されることで記憶され、記憶されることで忘却に抗い、コモンメモリーになりうる可能性を持つ。この点について、文字を持つことで「語るだけの人生がある」ことを表現した識字学級の記録、過去のオラルプロテストの記録をつなぎあわせて地域の被害集積性を見える化した新潟水俣病の事例、また災害による生活変容を行事や生業のあり方について記述・分析した。さらに、オラリティは、「語り部」として制度化されるのみならず、個別具体的な災害経験の物語化を通して、社会的に価値づけられ、制度化されていくことを明らかにした。 また、オラリティの持つ「力」を排除しようとしたときにヘイトスピーチが生まれ、社会的に不公正な状況を背景にした相対的剥奪感(ねたみ)が生じたときに語りへの沈黙が生まれがちである。排除は無意味な対立を招き、ねたみがもたらす平等は社会正義を低空飛行させる。しかし、こうした状況に可変性を与えるのも具体的な身体と身体のコミュニケーションである。特に「見えにくい被害」の「見える化」にあたって、オラリティの力はオラリティを聴く力としても表出するからである。たとえば、淡々と語られる日常から、その変容を具体的に記述することは、その時代・地域の文脈を共有しなくてはならないからである。 こうした分析に加えて、オラリティの記録化についても議論した。当事者による記録化を後押しする手法、聞き書や映像記録のように第3者の編集を経て記録化される手法があるが、いずれも権利へのアクセスであると同時に、「生」をめぐる時代の記録である。オラリティの個別具体的な世界が射程に入れるのは、現在への批判的な視座であると同時に、肯定しうる未来への創造的視座である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、オラリティの当事者性について考察するとともに、オラリティが「語り部」として制度化されるだけでなく、時間的な推移のなかで物語化し、社会制度(具体的には災害対応の制度)のなかに取り込まれていく状況を明らかにした。また、行事や生活変容に関する淡々とした語りが「証言」にもなり「抗議」にもなりうる状況が、具体的な事例研究から明らかになった。そこから、特にコモンメモリーから排除されがちな主体のオラリティの力とは、オラリティを読み解く力であることを明らかにした。 研究会では、オラリティの身体性への注目のみならず、記録されたオラリティの分析(ドキュメンタリー映像など)の有効性についても議論した。戦争の「語り部」など、長期にわたり証言をし続けてきた人々の記録から、オラリティのなかに社会と出来事の共新関係を探ることも重要な課題である。にもかかわらず、なぜ目前に当事者の存在に心奪われ、証言を求め続けるのか。そこで求められるオラリティの力とは何かを考えた。関連して、モノから引き出される記憶や感情のオラリティに関しても分析対象になりうることを確認した。 以上から、計画どおりに、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、長崎における被爆経験の広島との差異、産業の衰退によって放棄されたのちに観光で脚光を浴びることになった軍艦島のフィールドワークの場を共有したうえで、オラリティの潜在的な価値について研究会で考察する。 また、メンバー各自が個別の事例研究をすすめ、オラリティの「力」が持つ特性を整理しつつ、語りの背後にある問題状況や人々の生活世界を読み解いていく。特に、オラリティの身体性とその文化的な意味に着目し、時代と地域を読み解く調査研究をすすめていく(たとえば、避難指示区域の地域ごとの被害の個別性・固有性を語るオラリティ、公害問題を時代の文脈のなかで語るオラリティなど)。 なお、調査のなかで得た公開可能なデータは報告書として公開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、3月までに作成予定であった調査研究報告書の確認作業および印刷時期が、次年度にずれ込んだため、前倒し請求をした額に余剰が生じた。3月の追加調査に、5月の補充調査を加えて、報告書は6月頃に印刷予定である。
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備考 |
「『水俣病』時代の証人が語る:坂東克彦弁護士インタビュー(聞き手・関礼子)」(DVD,新潟県、2019)、関礼子『土地に根ざして生きる権利-浪江町津島における「ふるさと」の位相から』(報告書,2018)、関礼子「災害がもたらす社会の変化や問題点を記述し被災・避難者の視点から復興を支援する」(Kawaijuku Guideline 2018.11)、毎日新聞「疫学的に患者認定を」2019.5.14
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