ヘンリー8世の時代から17世紀初頭に至る間のプロテスタント国家形成期におけるイギリス文化が抱えた問題を、主として宗教と演劇との関係という側面から解明することを目指すものである。初期近代の英国社会において、政治と宗教が緊密かつ複雑な緊張関係にあったことは良く知られる。しかしまたその一方で、宗教改革後の新たな精神状況において、演劇が教会とも政治権力とも微妙に距離を置きつつ民衆の心の拠り所となっていったことも、見逃すことのできない演劇史的事実である。本研究計画では、テューダー朝後期に急速に成長した商業演劇とそれをとりまく文化が、同時代の広義の宗教的諸問題とどのように関係したかを調査・考究するとともに、そのような劇場文化に一つの足場を置いた個々の詩人たちが、政治や宗教の力に一方で大きく依存し、それを利用しつつも、他方で両者の支配的影響力を巧妙にすり抜ける形で独自の地歩を築き上げていった過程を具体的に明らかにしていくことになる。
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