今年度は、主に、局所体上の多様体上のe進層の導手公式を証明する論文の作成を進めた。これは、連携協力者の加藤和也氏と協力して行った。作成が進むにつれ、論文にとりこむ内容が増えたため、完成には至らなかったが、論文の内容が充実してきたことは喜ぶべきことである。 まず、準備となる馴分岐被覆の理論を整備した。ここでは、藤原氏によるZariski-Riemann空間の考えを用いる。ブローアップによるひきもどしを考えるという点では、Gabber氏による定義と共通点があるが、極限を考える点で、付値環の分岐理論と結びつくという利点がある。また、境界が正規交叉でない場合に、馴分岐という条件は余次元1では判定できない例を、一般の標数で構成した。この内容については、繰越後にKahn教授を招へいし東京大学玉原国際セミナーハウスで行った、数論幾何の国際研究集会で講演した。 もう一点、重要な改良に、切除公式がある。この公式により、従来はスムーズ層しか扱えなかった理論を、一般の可構層に対して拡張することができた。切除公式の証明は、ブローアップでのTor層をKoszul複体を用いて計算するものであるが、この証明も大幅に簡易化できた。切除公式を用いることにより、一般の可構層に対してもSwan類を定義できる。一般の可構層の高次順像のSwan類を、もとの可構層のSwan類の順像として表わすという、e進Riemann-Roch公式として、最終的な定理を書き表すことができた。もとの導手公式は、この一般的な公式で、射の行き先が定数体自身という特別の場合となる。 研究分担者の辻氏は、p進体上の多様体のp進コホモロジーの重さスペクトル系列の、新しい構成を与えた。これは、跡への応用が期待されるものである。
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