研究概要 |
有機炭素含有率(TOC)および窒素含有率(TN)をおもな指標とした気候変動の高精度解明を遂行した.現在から7.2万年前までについては,野尻湖堆積物について50〜60年間隔で分析するとともに,ほぼ同じ時間精度で分析した花粉組成からも気候変動を裏付けた.約4万年前から16万年前までについては,高野層のボーリング試料を解析し,20〜30年間隔でTOC含有量から気候変動を解析した.さらに,堆積物に含まれる有機物を湖水中起源と陸源性とに分離することによって,前者が特に気温を反映した指標として有効に働くことを明らかにした.解明された気候変動は,グリーンランドや南極氷床に記録された汎世界的な気候変動とも良く対応しており,中緯度地域においても長・短の周期で激しい気候変動が繰り返されていたことが判明した. さらに古い時代に遡って古気候変動を解明するために,熊本市北部の芳野層について2007年度に実施した学術ボーリングのコア試料(35m長)に対しても,TOC分析,テフラ解析および珪藻・花粉分析を行うことによって,約23万年前から36万年前間での気候変動を解明することができた.これは中期更新世の陸域の古気候資料として重要な成果である.16万年前から25万年前までについては,2008年6月に長野県川上村で川上湖成層(中期更新統)を対象として学術ボーリングを行い,38m長の柱状試料を得た.礫層と砂層の比率が予想よりも高いが,泥質試料を中心に丁寧な分析を行う予定である.本年度に採取した試料についてはまだ分析が終わっていないが,3年間の研究を通じて,湖沼堆積物に基づいて,過去40万年間の日本列島陸域の古気候を高精度で解明するという研究目標をほぼ達成することができたものと考えている.
|