昨年度までの検討により、ニューロン、アストロサイトへのTCA回路中間体の輸送特性およびTCA回路中間体の輸送に関与するtransporterとしてNa^+-coupled dicarboxylate transporter NaC3およびNaC2を同定することができた。N-acetyl-L-aspartyl-L-glutamate(NAAG)は、哺乳類の中枢神経系において比較的高濃度存在するニューロペプチドであり、グルタミン酸レセプターサブタイプmGlu3レセプターの選択的アゴニストであることから、脳におけるNAAGの動態は重要と考えられる。本年度は、脳におけるNAAG動態に関わるtransporterの同定とその生理的な役割に関する検討を進めた。NAAGはジペプチド誘導体であると同時にトリカルボン酸を有することから、peptide transporter PEPT2や、上記NaC2あるいはNaC3の基質となる可能性を考えマウスアストロサイトおよびニューロン初代培養系を用いた輸送実験を中心に検討を行った。 マウスアストロサイトにおけるNAAGの輸送特性について検討したところ、その輸送活性は非常に低く、飽和性の輸送は認められなかったが、NAAGはモデルジペプチドである[^3H]Gly-Sarの輸送を有意に阻害した。mPEPT2-C6 glioma発現系を用いた検討においても同様の結果が得られたことより、NAAGはPEPT2の阻害剤とはなるものの基質としては認識され難いことが示唆された。また、NaC2を発現するマウス初代培養ニューロン、hNaC2-HeLa、mNaC3-HeLaにおけるNAAGの輸送を検討した結果、いずれもNAAGの輸送活性は認められなかった。NAAGの輸送に関わるtransporterの存在が示唆されていることから、次年度以降、脳内でNAAGを輸送する新規輸送系の同定を進める予定である。
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