研究概要 |
マウスのLegumain(アスパラギンエンドペプチダーゼ;AEP)遺伝子をノックアウトすると,加齢に伴って骨髄および脾臓に赤血球を貪食した細胞が多数出現した。本マウスをヒトの難治性血液疾患である血球貪食症候群(HPS)を自然発症する新しい動物モデルと位置づけ,その病態を解析した。加齢個体の骨髄で顕著に出現した赤血球貪食像は,脾臓肥大の見られない3ヶ月齢で既に顕著に出現しており,サイトスピンによる検索によって,貪食されているのは赤血球のみではなく,ヒトHPS同様に,有核細胞の貪食像も観察された。膜抗原の検索により,貪食細胞はマクロファージ系の細胞であることが確認され,ヒトのHPS様病態を自然発症することが示唆された。貧血を示すヘマトクリット値の低下は6ヶ月齢で有意に見られたが,特殊染色により網状赤血球を観察すると,3ヶ月齢で既に有意に上昇しており造血の亢進が示唆されるとともに,体温の上昇についても3ヶ月齢で既に1℃以上の上昇が見られた。一方,白血球や血小板の減少は観察した全ての期間にわたりヒトの症例のように減少しておらず,白血球数はむしろ上昇傾向にあり,ヒトHPSで見られる高サイトカイン血症についても,TNFαの血中値の上昇が一部の個体でのみ観察され,IFNγ,IL-1β,IL-4,M-CSFは正常であったことから,結論するには至っていないものの,本モデルはヒトHPSの全症例を再現するモデルではなく,一部の病態を示す病態モデルであることが示唆された。一方,AEPにはカスパーゼI(ICE)様活性が報告されている。ICEの関与が示されているFasリガンドにより誘導されるIL-1βの成熟型へのプロセッシングが,ICEのKOマウスで残存していることからAEPの関与が疑われたが,FasLを発現する細胞の移植によってもIL-1βの産生上昇は見られず,AEPの関与は観察されなかった。
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