研究概要 |
アスパラギンエンドペプチダーゼ(AEP)欠損マウスにおいて加齢により進行する造血系細胞の異常を特徴付けるために,B6;129交雑系における主に6ヶ月齢以降のAEP欠損マウスに見られる病理変化を解析し,病態モデルとしての性格付けを行った。加齢したAEP欠損マウスは体温上昇,貧血,肝脾腫,骨髄や脾臓における血球貪食病態が観察された。これらの所見はヒトの血球貪食症候群(HPS)に特徴的な病態に一致した。血球貪食細胞の一部は,リソソーム病に分類されるゴーシェ病に特徴的なゴーシェ細胞様の形態を有し,自家蛍光やPAS陽性など,その特徴を示した。さらに,血球貪食細胞はF4/80およびCD68に陽性のマクロファージであり,赤血球貪食が顕著なことから,腹腔マクロファージの赤血球に対する貪食能を解析した結果,AEP欠損マウスの腹腔マクロファージでは貪食能が若干ではあるが有意に上昇していた。ヒトHPSは骨髄や脾臓などにおいて血球貪食マクロファージが異常増加する難治性疾患であり,サイトカインの過剰産生によるマクロファージの活性化が一因と考えられている。さらにAEP欠損マウスの赤血球膜蛋白質に異常が観察されたことから,赤血球の成熟や老化の異常により貪食作用が亢進しHPS様病態の悪化につながっている可能性も示唆された。AEP欠損マウスにおけるHPS様病態発現の分子機序は未だ不明であるが,リソソーム酵素であるAEPの欠損がタンパク質などの異常な蓄積を生じ,HPS様の病態形成に深く関わっていることが示唆された。AEP欠損マウスは末梢血中のサイトカイン上昇は見られないものの,ヒトHPSの病態をよく再現したモデルマウスとして位置づけることができた。
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