研究概要 |
本研究が目指す才能育成モデル構築に向け,(1)従来からの遺伝的要因に規定される才能に関する捉え方に対し,環境と練習のプロセスに基づく熟達化理論の整理を行う作業,及び(2)エキスパート・スポーツ選手を対象としたインタビュー調査による才能獲得体験の描写,の2つの作業を実施した。 まず,熟達化理論の整理作業から得られた知見として次の2点があげられる。第1に,Ericsson K.A.(2006)等の研究の蓄積から,才能獲得は,長年に渡る構造的な練習とその阻害要因の除去が必要であり,そのために支援的な環境設定が不可欠となる点が明らかとされている。第2に,そうした意味において,スポーツにおける才能獲得は,育成による支援的関わりによって達成される対象と位置づけられる。したがって,日本におけるスポーツ選手の才能育成は,いかにしてそうした支援的環境を整備するかといった方向性が有効である点が示唆された。 次にインタビュー調査による体験の描写に関しては,個人競技種目8名,団体競技種目14名を対象とし,インタビュー調査を実施した。分析作業は現在進行中であるが,現時点で得られた分析結果として,エキスパート・スポーツ選手は,当該競技に関する快感覚を自身の体験として取り込み(意味の発見),徹底して追求し(探索的体験),自身と動作技能やパフォーマンスが一体化される過程(知識の統合)によって構成されることが示唆された。すなわち,動作技能の習熟においては,幼少期からの当該競技スポーツへの意味形成が重要な役割を果たしており,更には自身で動作のコツを実感する探索的な知識統合の過程が重要な役割を果たしている点が明らかとされた。
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