研究課題/領域番号 |
18500641
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
深津 佳世子 (佐々木 佳世子) 山形大学, 農学部, 客員准教授 (70338903)
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研究分担者 |
佐藤 英世 山形大学, 農学部, 准教授 (60235380)
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キーワード | 糖尿病血管障害 / 糖尿病 / 血管障害 / グルタチオン / 鉄 / 酸化ストレス / 血管内皮細胞 / 糖化 |
研究概要 |
「人は血管とともに老いる」といわれる通り、長寿社会の到来や食生活の変化に伴い、近年我が国では疾病構造が大きく変化し、血管障害に関わる疾病が急速に増加している。基礎疾患の中でも、特に糖尿病は増加の一途を辿っており、合併して引き起こされる糖尿病性血管障害の予防対策は急務である。現在は血糖値のコントロールが重視されているが、必ずしも血糖値が高い患者ほど血管障害を発症しやすいというわけではない。糖尿病性血管障害の発症には糖尿病発症とは別の要因・経路がある可能性も考えられた。しかし一方で、グルコースが主役因子であるという臨床家の意見も根強い。高血糖から糖尿病性血管障害発症の間に、グルコースとも深く関連する新たな因子群が介在しているのではないかと考えたことが、本研究課題の着想の由来であり、独創的な点である。 本研究において、培養ヒト血管内皮細胞を用いて高濃度グルコース(高グルコース)による細胞障害について検討を行い、既に、鉄が枯渇している培養細胞では障害が起こらず、高グルコース障害の生起には鉄という因子が必要であることを発見していたが、それに基づいて、生理濃度以下の鉄補充の培養系、『鉄/高グルコース』の系を用いて、グルタチオン依存性の抗酸化能が顕著に低下していることを発見した。この抗酸化能低下は、抗酸化酵素自体の活性やグルタチオン濃度には変化がないにも関わらず、グルタチオン補酵素活性が極端に低下していたことから、グルタチオン自体が糖によって化学的に修飾を受けた可能性が考えられた。そのため、糖尿病性血管障害発症の原因となる可能性を持つ新規候補因子として、グルタチオンのN位とS位がそれぞれグルコースにより糖化された2化合物、N-1-deoxy-fructos-1-yl-glutathioneとS-fructos linked glutathioneを本研究により合成し、それらの化合物を作用させたときの培養細胞に与える影響を探った。培養細胞としては、血管障害研究にこれまで用いてきたヒト臍帯静脈内皮細胞に加えて、糖尿病生体内で障害されやすいヒト腎メサンギウム細胞、ヒト網膜血管内皮細胞を用いた。それぞれの培養細胞について、抗酸化能の基礎データを得た上で、糖尿病性血管障害モデル培養系の作製を行い、上記2化合物が生細胞においてグルタチオン依存系の抗酸化能を奪う可能性について検討中である。我々が開発した培養細胞の抗酸化能を生きたまま測定する方法を用いて、新しいデータを得つつある。このような機序に関する報告はこれまでになく、本研究は独創的な角度から未知のメカニズムを解明する新たな道筋をつけた点で重要だといえる。
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