研究2年目の19年度は、初年度同様、積極的に資料収集した。研究代表者(林)は主として米文学関係、研究分担者(斉藤)は主として英文学関係の資料収集を行った。19年度は当初予定されていた他研究者との交流が諸般の事情で実現されなかったため、その分を資料収集に充て、書籍、DVD等を購入した。 研究代表者(林)は米文学の背景となる西洋文明の歴史的コンテクストにおいて、テクノロジー、メディアと人間の存在がどのように複雑にかかわってきたかを検証するために、『メトロポリス』(1927)や『ブレードランナー』など、SF映画に現れる女性のロボットのジェンダー性について、またヴィクトル・ストイキツァの『ピュグマリオン効果』、ジャン=ジョセフ・クロード・グーの『哲学者エディプス』などで論じられるシミュラークルやアイデンティティの問題と技術の問題などについて中心的に考察した。 研究分担者(斉藤)は英小説の原型の一つがサミュエル・リチャードソンの作品に代表される書簡形小説であることから、インターネットの普及と通信テクノロジーの進化に伴い、そのような通信手段を用いたディスコースを本体とする作品が生まれるかどうか検討した結果、2005年度にマン・ブッカー賞候補、2006年度にオレンジ小説賞受賞作となったゼイディー・スミスの『美について』に注目した。小説の冒頭の一文はE・M・フォースターの『ハワーズ・エンド』の冒頭の手紙文を電子メール文に置き換えたパロディであり、このようなテクスト間相互関連性を絡めた上で電子メール文が使われるようになったということは英小説の伝統を引き継ぐ形で通信メディアやテクノロジーが使用されている格好の例であると判断した。 両者ともに、今年度の知見を元に、今後さらに研究を発展させる予定である。
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