研究概要 |
1.目的 本研究の目的は、<否定>と<文末詞>のジャナイを取り上げ、ピッチを分析・再合成した音声を刺激とした試聴実験を行って、<否定><文末詞>それぞれに(1)最適なピッチパタンの範囲と、(2)許容されるピッチパタンの範囲を明らかにし、文のピッチパタンと発話意図解釈の対応の記述を精密化することである。 2.実験 藤崎モデルを用いてピッチを分析・再合成した音声を作成した以下の72個の音声を試聴実験の刺激とした。 <否定>スキジャナイの加工音声:/ja/のピッチ6段階×/nai/のピッチ6段階=36個 <文末詞>スキジャナイの加工音声:/ja/のピッチ6段階×/nai/のピッチ6段階=36個 首都圏出身の大学生を被験者として、次の3種の試聴実験を行った。 (1)強制選択被験者は刺激を聞いて、その刺激が<否定>の用法か<文末詞>の用法か選択する。 (2)<否定>としての評価 被験者は刺激を聞いて、その刺激が<否定>の用法として適切かどうか5段階で評価する。 (3)<文末詞>としての評価 被験者は刺激を聞いて、その刺激が<文末詞>の用法として適切かどうか5段階で評価する。 3.結果 被験者の80%以上が<文末詞>または<否定>と解釈した刺激および被験者が5段階評価で4以上の評価をした刺激を<否定>または<文末詞>に聞こえる刺激とすると: (1)本実験で加工した範囲のピッチの変動では,全体としては否定と解釈された刺激のほうが多かった。 (2)<文末詞>に解釈される刺激は、元否定音声、元文末詞音声どちらを加工した刺激の場合も、jaのピッチが高いものに多い。一方,<否定>に解釈される刺激はjaのピッチがそれより低い元否定音声を加工した刺激に多い。 これらの刺激音声のピッチパタンを重ねてえがくと、否定の刺激のピッチパタン(とくにkiからjaにかけての下降の曲線)は文末詞の刺激のピッチパタンの内側にあるように見える。つまり下降が早く起こり急である。 ピッチパタンを細かく見ると、jaの高さが共通でnaiの高さが半音違う刺激で<否定><文末詞>の解釈が分かれている場合が見られ、発話意図解釈に関わる要因にさらに精密な検討を要する。
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