まず、第1段階として、東海地方在住のネイティブ手話話者の協力を得て、「移動事象」を表すような「類辞」を含む手話表現を撮影し整理した。手話話者の言語に関る可能性のある要因(性別、在住地域、年齢、教育歴、家族構成、失聴時期、日本語使用の頻度・割合など)のデータも、協力者の許可を得て同時に記録した。関西地方在住の聾者にも同様の条件により撮影を開始し分析した。撮影した手話表現は、以下の通り、 1)移動表現を日本語で記述したものを提示し、それに対応する手話表現、 2)音声はないがストーリーのある映像を提示し、その内容に対応する手話表現 3)ストーリーのある絵本を提示し、その内容に対応する手話表現 4)有名な物語の内容を語った手話表現 5)Native signer同士の日常会話 の5種類で、1)以外は日本語が全く介在しないように撮影を行った。また1)でも、日本語の内容がわかりにくいときは日本語・手話・図解による説明を加え、また他の表現方法の可能性を必ず確認し、考えうるすべての表現方法を撮影した。手話話者自身が手話を第1言語と認識している、30歳代〜60歳代の男女で撮影を行い、横断的に地域差以外の比較も行えるよう工夫した。 次に第2段階として、これらの2つの地方の手話データの比較と分析から、現時点で以下のようなことが明らかになった。 1)地域方言の差よりも、年代や教育歴(聾学校かインテグレートか)による差のほうが顕著である。類辞に関しては、地域によって大きな異なりはない。その差もおおむね語彙的なレベルに限られる。 2)類別詞言語である日本語から借用された類別詞は、日本手話に「語」として借用されているものもあるが、その用法は日本手話において全く発展していない。故に日本手話には日本語にみられるような名詞的類別詞表現は基本的には存在しないといえる。従って手話の類辞は別の文法機能を担っている可能性が示唆される。 3)手話表現が、語りのテクストかどうか、というスタイルが類辞の選択に影響する。
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