研究概要 |
日本手話(JSL)において,動詞が類別詞(classifier:CL)を含む表現をさまざまな地域で撮影し,サイナーのメタデータを参考に,整理・編集・分析し,CLが含まれる最も典型的な構文は移動事象を表す構文であることを見た上で,移動構文について, 1.様態動詞と2種類の第1・2さ経路動詞の組み合わせによる連続動詞構造をとり, 2.動詞構造は一定のルール「(第2経路動詞と他の動詞の)方向一致制限」に従い, 3.様態を表す要素が先に,経路を表す要素が後に現れる傾向があり, 4.様態動詞単独で移動表現をつくることは,特別な条件がない限り不可能であり, 5.第1経路動詞には必ずCLが現れるが第2経路動詞には必ずしもその必要がない. 等を明らかにした(今里2007a,b).しかしこのような構造がさらに複雑な種類の移動構文(caused motionやfictive motion等)に引き継がれるのか,他のCL構文(使役や,やる・もらうの構文等)とどのような関係があるのかは今後の課題である.またSlobin (2004)ら等は,連続動詞構造をもつ言語は,移動表現を対象としたTalmyの2分法の類型理論では扱えないと批判し,いわゆるV言語とS言語の間に段階を設け,その中ほどに連続動詞言語を位置づけるべきと主張する.実際どちらの(または別の)考え方が適切なのかを明らかにするためには,JSLのような連続動詞言語の実証的研究を急ぐ必要がある.今後の課題を実行するため,JSLのコーパス作成も必要である(今里2008).JSLのCL構文を説明する理論を構築することは,手話言語学研究のコンテクストだけでなく,音声言語におけるほかのCL構文・動詞連続構造をもつ言語との相違点を明らかにでき,広く一般言語学の研究の流れの中でも意義深い.
|