研究概要 |
本年度は奄美大島における退職U・Iターン者の移動要因に関する調査を実施した。団塊の世代の大量退職にともない,奄美大島にも多くの退職者がU・Iターンしている。宇検村芦検における調査から,長年本土に居住した出郷者が母村にUターンできる要因として,母村の出郷者,および出郷者どうしの人的ネットワークの形成,帰還後の生活拠点となる土地家屋の温存,老後の生活を支えるに足る年金収入の存在が明らかになった。 また研究全体の総括の意味から,奄美群島全体の地域社会と高齢者の関係性を,先行研究や本研究の成果から考察した。奄美群島住民の基本的な空間的枠組みはシマ(村落共同体)であったが,日本復帰後50年を経てシマの機能が衰退した。シマの衰退は過疎化や高齢化といった現象として表出したが,一方で生活空間の拡大や各島の中心集落の都市化,生活様式の近代化が進展し,群島の生活は表面的には本土と変わりなくなった。日常生活空間が行政区域や島全体に拡大した結果,シマを基盤としたシマ社会は,島を生活の舞台とする島社会に変容した。現今の高齢者はこの社会的激変を身をもって体験した当事者である。
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