研究の一環として、引き続き方面委員制度をフィルターに研究を進めた。欧米同様、日本の女性も社会進出の舞台に社会事業を選び、具体的には婦選獲得同盟が方面委員採用の運動に乗り出していくからである。方面委員制度のモデルの一つエルバーフェルト制度は当時、限界が指摘され、修正されたストラスブルク制度が好評を得ており、名誉職に有給吏員を併用する同制度は多くの女性に採用の道を開いたと評価されることから、今回も独逸の救貧制度に着目した。1930年代前後、方面委員制度が法制化される過程でストラスブルク制度に注目が集まったが、もし同制度が導入されていれば、日本でも欧米のように女性が社会事業の発展に貢献し歴史を塗り替えることができたのではないか?この仮説の立証の前提、あるいは日本の今後を展望するために、制度誕生の地であるストラスブール市(現フランス)の現在の社会福祉行政と女性の位置づけを明らかにする調査を行った。9月下旬に現地調査を行い、史資料を入手すると共に、(広域)都市共同体事務所の連帯・厚生関連事業部の部長Philippe Cornec氏にインタヴュー、成果を「〔調査報告〕ストラスブールの社会福祉行政(1)」(関西学院大学人間福祉学部研究会『Human Welfare』第2巻第1号)として発表した。また女性たちが行った運動についても、5月の社会事業史学会(第11回)と11月のジェンダー史学会第6回大会でそれぞれ「方面委員制度とドイツの救貧制度-婦人方面委員の採用に着目して-」、「婦人方面委員とストラスブルク制度」というタイトルで報告を行った。さらに平成22年1月には、室田保夫編著『人物でよむ 社会福祉の思想と理論』(ミネルヴァ書房)で、「平塚らいてう-女性福祉思想の源流をたどる-」「山川菊栄-働く女性へのまなざし-」<コラム>「ジェーン・アダムズと日本の女性運動」などの執筆を担当し、日本の女性運動家たちと社会事業の関係について人物を通して紹介した。
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