非特異代数多様体Xから、自分自身への全射正則写像fが、非定値写像であり、かつ同型写復でないとき、非自明な自己準同型写像(endomorphism)という。この時、fは必然的に有限写像となり、更にXの小平次元が非負ならば、fは不分岐である事が知られている。私の研究目的は、非自明な自己準同型写像を数多く持つ代数多様体の構造を、代数多様体の分類論の視点から調べることである。複素力学系では主に射影空間の上の非自明な自己準同型写像が研究されてきたが、我々の研究対象は写像でなく多様体の構造であり、それは楕円曲線やアーベル多様体・トーリック多様体を含むクラスで非常に簡明な構造を持つと予想される。2次元の場合や、3次元で小平次元が非負な場合には、中山昇氏(京大・数理研)との共同研究によってこれらの多様体の構造は完全に解明された。それに反して、非自明な自己準同型写像を持つ小平次元が負の3次元非特異射影代数多様体の分類は'自己準同型写像がエタール'という条件を付加しても容易ではない。今年はこの条件付の場合を完全解決する事を主要目標に研究を行った。端射線の型が因子型ならば、端射線の収縮写像は楕円曲線を中心とする爆発の逆であることは以前の証明と同様に示せる。難点は端射線の個数が必ずしも有限個でなく極小モデルプログラムを自己準同型写像の範疇で走らせる為には種々の還元が必要なことである。その結果、非自明なエタール自己準同型写像を持つ小平次元が負の3次元代数多様体Xは、適当なエタール・ガロワ被覆をとることで、楕円曲線と曲線との直積または楕円繊維曲面の上のP^1-束、或いは楕円曲線の上のP^2-束を然るべき楕円曲線にそって逐次、爆発させて得られる。後者の場合にはAtiyahによる楕円曲線上のベクトル東の分類結果を用いることで、より詳細な構造解析が可能である。これらの多様体の候補の上に、実際に非自明なエタール自己準同型写像を構成することは今後に残された課題である。
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