研究代表者の青木は、代数体上定義された虚数乗法を持つアーベル多様体のモーデル・ヴェイユ群のトーションパートの大きさについての研究を行った。この方面の結果としては、1974年のOlsonの論文で、有理数体上定義された楕円曲線の場合に、その有理的トーションの大きさは対応する虚二次体に含まれる1のべき根の個数により押さえられるという結果が知られていた。この事実は1988年のSilverbergの論文で一般次元のCM型アーベル多様体の場合に一般化された。Silverbergの結果は極めて一般的であるが、残念ながらそこで得られている評価は必ずしも最良のものではなかった。そこで、研究代表者は、志村・谷山の虚数乗法論を用いて、自己準同型環がアーベル多様体の定義体で有理的でないという条件をみたす場合にSilverbergの評価式の改良を研究した。得られた結果は、その条件の下では、虚数乗法を持つアーベル多様体の有理的トーションの大きさは、自己準同型環の最小定義体に含まれる1のべき根の個数により押さえられるというものであり、丁度OlSonの結果の一般化になっている。また、一般次元の場合に、この結果はある意味でほぼ最良の評価式であることを証明することが出来た。更に楕円曲線の場合にも、ParishやClarkの結果を部分的に改良するものになっていることが確かめられた。 研究分担者の藤井は、Riemannゼータ関数の臨界線上の偏角の値の分布の研究を行い、Riemann予想の仮定の下に、偏角の平均の絶対値の明示的上界を与えた。これはKaratSuba-KorOlevによる従来の最良の結果を改良するものになっている。
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