研究概要 |
気体運動論の基本方程式であるボルツマン方程式は,微分積分方程式であり,物理的に重要なモデルでは,その積分項の核が粒子の衝突角度を変数として特異性を持つ.これまでの多くの研究は特異性をもつ角度が0の部分を取り去った条件下で議論されてきた.本研究では、積分核が特異性をもつ場合には,その特異性に応じて衝突積分項が作用素として、分数べき、あるいは、対数オーダーの楕円性を持つことに着目し,ボルツマン方程式を線形偏微分方程式論でよく知られた無限回微分可能な解しかもたないコルモゴロフ作用素の同類と見なすことによって,解の滑らかさ(regularity)について研究をすすめた.線形偏微分方程式論における退化楕円型作用素の準楕円性の解析に用いられる,擬微分作用素論,HoermanderのLie-bracket条件,Feffermanの不確定性原理,などの超局所解析の手法を使ってボルツマン方程式の解のregularityを,空間について一様な場合,非一様な場合に分けて解析した.空間について一様な場合には,衝突積分核が2粒子の相対速度によらないという仮定の下では,熱方程式と同様な解の平滑効果がおこることを、対数オーダーのような弱い楕円性しか持たない場合も含めて、一般的に示した.また,初期値問題の解の平滑効果がGevrey級の関数空間でも期待できることを,ボルツマン方程式を定常解(Gauss関数)の周りで線形近似した方程式を考察することにより明らかにした.空間に非一様な場合についても,Boltzmann方程式の線形近似方程式を考察し,解の存在とregularityを示した.また,線形退化楕円型作用素とボルツマン方程式などの非線形偏微分方程式との定性的な類似性を検証する観点から,ある種のLie-bracket条件をみたす準線形偏微分方程式についてその実解析解が無限回微分可能な関数空間で不安定であることを明らかにした.
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