1.3成分ボース・アインシュタイン凝縮体の時間発展を記述するGross-Pitaevskii(GP)方程式に対して、我々は2004年、結合定数が満たすべき完全積分可能系であるための条件(可積分条件)を発見した。この系を逆散乱法を用いて解析し、多成分ソリトンの衝突過程を明らかにした。また、結合定数が一般の場合、パンルベ判定法を用いて、3成分GP方程式の可積分構造を解析した。その結果、ソリトン系(可積分系)となるのは、3成分Manakov方程式と我々が発見した条件の場合に限られることが証明された。物理的には、前者は密度相互作用だけを含むのに対し、後者は密度相互作用とスピン相互作用の両方を含んでいる。凝縮体のスピンダイナミックスは、大変興味深い研究課題である。 2.デルタ関数型相互作用を持つ1次元スピン1/2フェルミ粒子系の基底状態をYang-Yang積分方程式を使って解析した。解法には、Lieb-Liniger積分方程式に対して、和達(2002年)が導入した方法を拡張して用いた。引力相互作用系を取り扱い、また、外部磁場を含めた点は、特に野心的である。相互作用の大きさが大きい場合と小さい場合をともに厳密に解析することができた。直感とは異なり、弱い相互作用の場合は難問として知られている。さらに、相互作用定数と磁場の関数として磁化を求め、状態の分類をおこなった。完全に対形成した非分極相、対形成のない完全分極相、それらの共存相、の3つの相が存在し、それらの相の間では量子転移があることを証明した。 3.非線形光学における自己透過(SIT)現象は、1960年代に活発に研究され、ソリトン物理の確立に大きな役割を果たした。その拡張として、近年、電磁誘導透過(EIT)現象が多くの興味を集めている。2つのレーザー光とラムダ配位の3準位原子系の相互作用を調べ、可積分条件を見出すことに成功した。ソリトン解を構成し、パルス伝播の性質を明らかにした。また、2ソリトン解を求め、衝突の多彩な振る舞いを調べた。多成分ソリトン系として、F=1(3成分)、F=2(5成分)のボース・アインシュタイン凝縮系と密接な関係があり、量子情報などへの応用が考えられる。 4.量子力学において、エネルギーが実数値であるためには、エネルギー演算子はエルミート(自己共役)でなければならないと思われている。しかし、エルミート演算子の固有値が実数であることの逆は、必ずしも正しくはない。その例として、ソリトン理論での成果を用いれば、実数固有値をもつ非エルミートポテンシャルが統一的に構成できることを示した。量子力学には、まだ多くの興味深い現象が隠されている。
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