研究概要 |
擦過によるサンプル採取方法を用いて、健常者と味覚障害例の味覚関連遺伝子であるT2Rファミリーの遺伝子発現頻度について検討をおこなった。 対象は、健常者は濾紙ディスク法により味覚障害がないことを確認できた10例で、年齢は22〜44歳、平均年齢は32歳で全員女性である。味覚障害例は日本大学医学部附属板橋病院耳鼻咽喉科味覚外来を受診し、濾紙ディスク法で味覚障害が確認された49例である。味覚障害例の内訳は、年齢は25〜86歳、平均61歳で女性29例、男性20例、原因別分類は、特発性味覚障害が19例、亜鉛欠乏性味覚障害が14例、感冒性味覚障害が10例、薬剤性味覚障害が6例である。 今回は、苦味受容体に関連するとされているT2RファミリーのT2R3,T2R8,T2R9,T2R10,T2R13,T2R16の6サンプルについて発現頻度を検討した。 健常者に比較して味覚障害例での発現頻度が低い傾向を示し、特にT2R8,T2R9,T2R10,T2R16がヒトの味覚関連遺伝子である可能性が示唆された。原因別に遺伝子発現頻度を比較した結果、亜鉛欠乏性味覚障害の遺伝子発現頻度が低い傾向を示した。特にT2R9,T2R10の発現頻度が低く、亜鉛欠乏性味覚障害例の診断に利用できる可能性が考えられた。また、亜鉛欠乏性味覚障害12例において遺伝子発現の経過を追跡した結果、8例において治療により味覚障害の改善がみられ、同時に発現遺伝子数が多い傾向があることから、亜鉛欠乏性味覚障害例の予後診断に利用できる可能性が考えられた。 以上の結果から、舌における味覚受容体遺伝子の発現の検討は、味覚障害の診断に利用できる可能性があるものと考えられた。なかでも、亜鉛欠乏性味覚障害においては、その予後診断にも遺伝子発現の検討が応用できる可能性があるものと考えられた。平成19年度は症例数を増やし、さらなる検討を行っていきたいと考えている。
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